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2022.06.30

日本人女子で初めてUTMFを制したトレイルランナー・宮﨑喜美乃

Jeepオーナーでもあるトレイルランナーの宮﨑喜美乃(みやざき・きみの)氏が、4月末に開催された『Ultra-Trail Mt. FUJI』に挑戦!想像を絶する過酷なレースに挑んだ宮﨑氏によるレポートをお届けする。さらにJeep Compassのオーナーでもある宮﨑氏に、Jeepの魅力や自身との共通点、Compassを選んだ理由についても伺った。

冒険感がトレイルランニングの魅力

登山道を歩くのではなく“走る”スポーツ、それがトレイルランニングです。歩くよりも遠くへ、乗り物に乗っては行けない場所へ、限られた荷物を背負い自分の身体や頭を最大限につかって山のディープな場所へと潜り込める、その冒険感がトレイルランニングの魅力だと私は思います。
その中でも人間が眠らずに走り切れる最長の距離と言われる160kmのトレイルを走破するウルトラトレイルレースが、私の主戦場です。ゴールに到達するまでの約24時間を太陽や月の位置によって時の流れを感じ、一秒単位で変化する空や雲、木々のコントラストは、人工的には作り出せないその色彩に誰もが魅了されながらゴールを目指します。自然の壮大さ、儚さ、時には厳しさを感じながらも、眠気や痛みなどの感情をコントロールして進み続ける戦いは、他の誰でもない自分自身が最大の敵となる、このスポーツならではであり、独特な勝負の世界があります。ウルトラトレイルレースにおいてトップアスリートが集まる大会『Ultra-Trail Mt. FUJI』が4月末に開催されました。日本の最高峰である富士山を拝みながら走れるトレイルコースは、海外選手からもとても人気の高い大会です。

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大会当日の朝、深夜まで強く降り続いた雨は上がり、青空が見え始めました。隠れていた富士山も顔をだし、いよいよ本番だと高ぶる感情を抑えつつ最後までレースのイメージをして会場に入りました。

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スタート会場に着き、必携品の最終チェックを行います。トレイルランニングは山の中でのスポーツのため、途中でエネルギー不足にならないように食べ物や飲み物をはじめ、天気の急変に応じた防寒具や雨具、怪我の応急処置セット、ライトや携帯電話、それらの予備電池など緊急時の装備を最低限持って走ります。どんな荷物を用意するかは選手によって様々で、その工夫がまた冒険心をくすぐってくれるのです。約1,800人のトレイルランナー達がスタートゲートに集まり、待ちに待った160kmの旅の号砲が鳴り響きました。

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スタートから4時間が経過した頃、辺りは暗くなり“睡魔”という敵が待ち迎える最初の難関が始まりました。睡魔との闘いはペースが落ちるだけでなく、判断力も欠けてしまいます。頭に付けたライトで照らす半径1mの世界の中をスムーズに走るには、睡魔に打ち勝つ集中力が必要なのです。

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約8時間が経過し、68km地点にあるサポーターが待ち構える精進湖のエイドステーションに到着しました。時刻は23時と、これから迎える深夜帯に向けて、水分や食物をしっかり補給し、この先のルートを頭に覚えさせます。インプットさせたルートを確認するように進むことで、コースアウトなどのリスクを最小限に、かつスピードを出して走ることができるのです。順調に進んでいた矢先、ライトの光がプツッと消え暗闇が訪れました。「あれ? 充電はしてきたはずなのに…」
ふと思い返すと、最初にライトを装着した際に点灯せず、電池が逆向きであった事に気づきタイムロスをしていました。前日の準備の際に、逆向きのまま充電器にセットしたため充電ができていなかったのです。急いで予備電池と交換しようとするものの、単独で走っていたため他のランナーは居らず、真っ暗闇。携帯のライトを点灯し、口に咥え両手で急いで背負っていたザックを開けました。何かあった時にはすぐに取り出せるようにと手前のポケットの中に収納していたので、最小限のタイムロスで交換出来たものの、どのくらいロスしただろうかと、焦りが自分でも分かるくらい動揺し急いで走り出しました。時刻は深夜2時を過ぎ、90kmを超えてもまだ強敵の予定だった睡魔は現れず、闘志むき出しのまま前を追いかけました。

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日中の高温と湿気、そして無風によって温かい空気が森の中にこもり、あたりは霧が深くなりました。ライトの光が乱反射し、目の前は水蒸気の粒で視界を阻まれました。前に向けていたライトは足元近くを照らすよう下に向け、進行方向は前を走る男性のライトを目印にしようと、スピードを上げました。次第に霧は晴れたものの、今度は急激な冷気に手足が冷え始めました。これ以上冷やさないよう更にスピードを上げようと考えたものの、スピードアップは後半バテを引き起こします。上着を羽織りたいが、その行動でのタイムロスはしたく無い。悩みながら進むうちに、そろそろ朝を迎える時間だと気づきました。

夜が明け、ロングトレイルならではの耐久レースが始まる

DSC_8306 日本人女子で初めてUTMFを制したトレイルランナー・宮﨑喜美乃

夜が明け始めると、ただの舗装道路だと思っていた道の両側には水を帯びた田んぼが広がり、もうもうと立ち込む朝霧で覆われていました。次の山である大平山へと向かう登山口を見つけ、勢いよく登り始めます。気持ちとは裏腹にハイスピードで100kmを走ったカラダは重く、さっきまでは走れていた登りも走っては歩いて、歩いては走ってと、いよいよロングトレイルならではの耐久レースが始まりました。睡魔という敵は、深夜帯に打ち勝ったとしても、朝を迎える3時から4時の早朝の時間帯に再度襲いかかります。顔をたたき、目や口を大きく開けてしっかりしろ! と自分を鼓舞し、この先に待っているサポートメンバーの顔を思い浮かべながら足を進めます。やっとのことで山頂へ着いて顔を上げると、朝日に照らされ始めた山の輪郭が雲一つない空の中にくっきりと浮き上がり、山頂に積もっている雪の白さが際立つ富士山に出会えました。

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背中を大きく押してもらい、さっきまでの身体の重さが嘘かのように山を勢いよく下り切り、山中湖にあるエイドステーションに朝の6時に到着しました。現在女性トップ、2位とは1時間の差を開けている、という情報が入りました。しかし気になるのは男女総合順位です。世界で勝負するには、男女総合で20位以内に入りたい。スタート前にサポーターと話し合い、レースの後半から順位を聞くことを決めていました。ここからは誰もが苦しい時間が始まります。その中で、どれだけ順位を上げることができるのか、120km地点で総合25位、ここから私の気力の戦いが始まりました。

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残り約40kmは、ほぼ山岳区間となります。これまでのコースとは全く形相を変え、手足を使ってよじ登るトレイルや、終わりが見えない長い登りが続きます。これから太陽の位置が高くなり、木々の中に差し込む太陽の熱が私の身体を痛めつける時間帯もやってきます。気力、体力そして限られた水分で身体を動かすには、どれだけ朝のうちに進む距離を伸ばせるかが勝負の分かれ道だと考えました。14km進むのに3時間もかかる山の中では、さっきまで笑顔でいた私も眉間に皺を寄せながら、とにかく足を止めないこと、それだけを唱えながら前を見続けました。前半からハイスピードで走り続けた足は、登りでは力が入らなくなり、下りでは筋が破壊さているため踏ん張るたびに悲鳴をあげます。その痛みを耐えるというよりは、これだけ走ったから当たり前だよね、と受け止めることで心に余裕が生まれます。頑張っているからこの痛みは相応のもの、でももう少し頑張りたいから一緒に乗り越えよう、そんな気持ちで最後の富士吉田にあるエイドステーション144km地点を超えました。

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12時が過ぎ1日の中で一番暑い時間帯がやってきました。水分はしっかり摂れているもののレースが20時間を過ぎると、食べられる物も最小限となってきました。ポケットに入れておいたパイナップルを取り出し一つずつ大事に口に放り込むと、甘みと水分が口から足の指先まで伝わるかのように力が湧いてきます。しかしながら最後の登りは、もう走ることも出来なくなりました。ひたすら続く急登で前を行く男性ランナー達も苦戦しているのが分かります。見える位置にいながらも中々追いつくことが出来ず、抜いたとしてもすぐに抜かされます。頑張りどころを見極めながら、ただ黙々と最後まで前を追い続ける、その情熱だけで足を止めずに突き進みました。

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ゴール会場が見えた時、高まる感情に涙腺が緩みだしました。とにかく前を見続けて走った160km。総合順位を最後の最後までこだわり続けていたものの、ゴールテープまでの数十メートルは女性トップでゴールを迎えようとしている自分に出会えることが出来た喜びで、自然と拳を空に向かってギュッと強く握りしめました。いつもはトップに追い付かず悔しい思いをしたこの花道を、ついに22時間14分15秒、女性1位、そして総合19位でゴールテープを切りました。

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