Made in U.S.A.のスリーピングバッグ、ウエスタンマウンテニアリングを通じて知るアメリカンプロダクトのスピリット
妥協なきベストプロダクトを提供し続ける
創業当時の信念を貫くウエスタンマウンテニアリングにも、時代の風は容赦なく吹きつける。一つは、2000年頃に始まった天然素材の再発見ブームによるダウン素材の高騰だ。価格への影響が避けられない中で日本のロストアローは、マージン削減のため“苦肉の策”で全商品をネット通販に切り替えた。手に取って確かめたいという希望に対しては、返品・交換で応じている。
もう一つは直近のコロナ禍と、ソーシャルディスタンスを重んじることで起きた世界的なアウトドアブーム。サンノゼの工場では縫製職人が自宅にミシンを持ち帰って作業するも、いまだ予定の生産数に追い付いていないそうだ。
そうであるなら、リスク回避の方法はいくつもあっただろう。生産拠点の分散とか、拠点自体を人件費の安い他国に移すとか。他のメーカーやブランドがそちらに舵を切って拡大してきたように。
「ウエスタンマウンテニアリングがそれを知らないはずはないし、これまでに買収の誘いがなかったわけでもないと思います。ですが彼らは、自分たちの目の届く範囲で妥協なきベストプロダクトを提供し続けることを貫く。1970年の創業から変わらずに。それに尽きるのでしょう。一方で生産性が上がらないことでお客様には迷惑をおかけしますが、私の極論を言えば、ネームバリューや価格の面ではなく、キャンプで凍えた経験があるからこそ、ここにたどり着いてくれたユーザーと一緒に、このブランドを見守っていきたいと思っています」
そんな真っすぐなウエスタンマウンテニアリングを踏まえた上で、山本氏にアメリカンプロダクトの魅力をたずねてみた。
「アウトドア用品に限らず、クルマも服も、かつてのMade in U.S.A.には大らかな雑さの中に、長く使えるものづくりの精神が宿っていました。あえてカッコよさを求めないところがカッコよくて、それが私たちには他では代え難い気分となり、味となった。ここ数年のアメリカでは若い世代を中心にMade in U.S.A.への回帰ムーブメントが起きていると聞いていますから、私たち世代が好きだったアメリカがまた戻ってくるかもしれませんね。ウエスタンマウンテニアリングは、そんな時代の流れに関係なく真面目を通していますが」
分断を余儀なくされたコロナ禍の収束後にどんな世界が訪れるかは、まだ誰にもわからない。ただし、ウエスタンマウンテニアリング然り、オフロードの雄であるJeepも持ち得ているアメリカンブランドならではの“他では代え難い経験”には、かつてない見直しが起こる気がしてならない。
Text:田村 十七男
Photo:大石 隼土