生きものとしての火を操り、 アウトドア料理の可能性を追求する
「野外で食事する楽しさを知って欲しい」
スペシャリストが語るその極意
東伊豆町の稲取高原で行われた、ツリーハウスのお披露目会。ツリービルダーの第一人者、小林崇さんが監修に携わったツリーハウスは、まるであたかも以前からそこにあったかのように、周りの風景と馴染んでいる。その横で、ダッチオーブンと焚き火台、ワークテーブルを効率よく配置し、一心不乱に料理をする男性──アウトドアコーディネーターであり、アウトドア料理のスペシャリストである小雀陣ニさん、通称チュンチュンさんだ。
「こばさん(小林崇さん)とは10年ぐらいの知り合いで、何度かイベントで声をかけてもらって、ご飯をつくらせてもらっています」と小雀さん。今回は、親子連れを中心とした来場者に、ダッチオーブン料理に親しんでもらおうと、ワークショップを行った。「家庭でもダッチオーブンは使えますし、鋳鉄のおかげで素材にまんべんなく熱がまわって、ローストチキンやシチューなど、おいしくできますからね」。ワークショップは大好評。用意した8種類もの料理の前には長蛇の列ができ、瞬く間になくなった。
そんな小雀さん、実はカーメカニックからキャリアをスタートとしたというから驚きだ。MTBに乗るようになり、川下りや山登り好きの友人に誘われ、海だの山だの行くうちにその魅力にハマり、アウトドアウェアのパタゴニアに就職。その後、アメリカのアウトドアグッズ全般を扱うREIへ転職するも、2年ほどで会社が撤退。次はどうするかと考えていたところ、雑誌の通販ページのディレクターの仕事が舞い込んだ。その2年後、アウトドアのフリーペーパーが発刊。山や海での撮影の食事やスタイリングを担当することになり、料理の腕のよさからキャンプ料理の連載をスタートすることに。
「もともと料理は子どもの頃から好きだったんですよね。高校生のときはパスタにハマって、毎朝パスタ作って朝ご飯に食べてました(笑)。MTBで山を走っている時に、最初はお茶ぐらいわかそうか、って感じだったのが、じゃあ、ご飯炊くか、になり、鶏も焼いちゃう?になり。山で普通に食事を作っていましたね。そういうこともあって、友人と登山や川下りに行くうちに、気がつくと自然と自分がご飯担当になっていたんです」。
前述の連載を1冊の本にまとめて出版してからというもの、すっかり“アウトドア料理人”としてのイメージが定着してしまった、小雀さん。彼がいわゆる、一般的なレストランの料理人と大きく一線を画するのは、自然のなかで料理をするということ。また、山登りの途中の料理だからこそ、機能的な調理グッズを揃え、複雑な工程を減らして、少ない材料で手際良く料理を仕上げるなど、制約がとてつもなく多いことだろう。「仲間が今すぐ食べたいというタイミングにちゃんと料理を出したい。自分の作りたいものを押しつけることでみんなを待たせるのはイヤなので、僕の料理は基本的に簡単なんです」。加えて、小雀さんの道具に対するこだわりは相当なもので、気に入った水のタンクがなければヤフーオークションで米軍のステンレスウォータータンクを競り落とし、料理しやすい高さの調理テーブルがなければ、納得いくまで探して海外から取り寄せる。ついには、メーカーとコラボしてテーブルまでつくってしまった。「実用として優れていて、デザイン性の高いものでないとね。そこは譲れないですね」と小雀さん。「料理をしていてやっていてよかったって思うのは、やっぱりみんながおいしいと喜んでくれる瞬間。あと、アウトドア料理は、五感を使う料理なんです。炭や薪で料理することが多いんですが、その日の天候や風の方向などを考えないとうまく火の調整ができない。風をよけるためにはどうするか、薪の組み方はこうだとか、すごく考える。その作業が好きなんだなぁと最近、気付きました。人間は火を使うことで進化してきた。だから火を見ると落ち着くんだと思うし、そういった外で火を使って料理する楽しさを、イベントや本を通じて伝えていきたいですね」。
2011年9月には2冊目の著書『ダッチオーブン極楽クッキング』(枻出版)を刊行。おいしそうな料理が並ぶなか、「俺でもできるかも?」と思わせる超簡単料理が多いのもうれしい。風が気持ちいい初夏には、ダッチオーブンを車に乗せて、海や山でアウトドア料理の極意に触れてみてはいかがだろうか?