Interview

2020.05.07

origin〜プロスキーヤー・小野塚 彩那の原点〜

<localism>

世界でいちばん暮らしやすいトコロ。頼れる人たちが近くにいるシアワセ。

年間の約半分は海外遠征をしている小野塚さんが「いちばん暮らしやすい」と語る場所。それが新潟県の南魚沼市だ。生まれ育った地元石打には祖母と両親、叔父、叔母たちが暮らしている。
今年で創業70周年を迎える石打丸山スキー場の目の前で営む宿は元々母方の実家で、屋号は祖父の勝田郎さんの名から『勝田屋』と銘打つ。現在は叔父が宿経営を手伝い、さらに農業部門も引き継いで日本最高峰の米処で最高品質のコシヒカリを育てている。地元の降雪がそのまま雪解け水となり育苗となる土地柄。循環する豊かな自然の恩恵を享受し、環境に根ざした暮らしがそこにはあると見受けられた。何より、ご家族のみなさんの素敵な笑顔が心豊かでまっすぐな営みを物語っていた。

いなか茶屋『山彩』
絶品ランチ&居酒屋

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▲石打丸山スキー場の目の前にある大人気の「お食事処」。叔父との共同経営店のため家族的な雰囲気が心地良い空間。地元食材を使ったボリューム満点の美味定食やお食事は最高。定食では叔父が栽培する(写真右上)自家製一等米コシヒカリも味わえる。夜は地酒をはじめ豊富なドリンクメニューで地域の香り高く豊かな旬素材を最高の鮮度で楽しむことができる。春は山菜、秋はキノコなどを肴に一献。味な居酒屋としてもぜひ利用したい。

南魚沼産 塩沢コシヒカリ 
『勝田屋米』

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▲ふっくらとして艶やかで頬張ると豊かな甘みが広がるご飯。伯父の真さんが丹精込めて作った一等米Sランクのコシヒカリ。南魚沼の中でも良質な土壌と石打丸山の天然の雪解け水、さらには極力、自然に近い減農薬にこだわって栽培。また、作付面積を減らすことで、栄養価や高品質な食味を追求。直営のいなか茶屋『山彩』では定食として炊きたてのご飯を味わうことができる。

ところで、地元でスターの小野塚さん。移動中も街中で温かい声をかけられ、都度、自然な笑みで応える姿が印象的だった。同級生やスキー関連のご家族も多く、それが郷土ならではの温かいつながり。また、地元の老舗造り酒屋『青木酒造』も以前から小野塚さんを応援している。同社は、江戸後期における越後魚沼の雪国の生活を活写した物語『北越雪譜』に現われる“雪男”の逸話のように、地域に貢献する文化活動を根強く進めている。そこで、同社の『鶴齢』とならぶ日本酒『雪男』の売り上げの一部を小野塚さんに協賛しているという。

老舗造り酒屋『青木酒造』
新潟清酒の鶴齢

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▲創業は江戸期1717年(享保2年)。新潟県南魚沼市の老舗造り酒屋、『青木酒造』。303年の歴史を経て、現12代目は貴史氏。地元、巻機山の伏流水(軟水)と地元の酒米、越後杜氏の伝統の技が生み出す『鶴齢』。キレの良い淡麗な造りでありながら米本来の旨みを最大限に引き出した淡麗旨口で食中酒に適した飲み飽きのしない味わい。新潟清酒や地酒として、地域を盛り上げる意気にあふれ、旨みのある生酒や新酒をいち早くリリース。いつでも日本酒の革新的な味わい方を提案。また、同社は小野塚さんの協賛企業でもある。

口下手だけれど心温かい雪国の人々。そのなんともいえないホッコリとしたものを小野塚さんは大切に胸にしまっている。こうした郷土愛はこれまでもこれからも世界と戦う彼女の拠り所であり、原動力であり続けるのだろう。

<potential>

南魚沼には可能性しかない、と思いますね(岩佐)
なにかいいカタチにできたら、といつも模索しています(小野塚)

日本屈指の米処、越後平野。周囲に連なる山々、その峰々をくだる沢や渓流、そして、魚野川が支流を束ね平野を潤していく。平地には田んぼや畦道が続き、まるで絵に描いたような田舎の風景が広がる。それが『里山十帖』のある南魚沼市の情景である。

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▲『里山十帖』
全13部屋で自然に寄り添う宿の佇まい。地元の旬素材に舌鼓を打ち、雪国の食文化や叡智に触れる。四季情景を眺め、湯けむりの先に風景の移ろいを見出す宿。

今時期の雪化粧は春には新緑に萌え、一帯は美しい鏡面となる。そして、秋には周囲の山々が色づき紅葉絶景となる。宿正面には百名山の巻機山(1,967m)を見据え、伺った1月の折りは白銀の峻険な山容が太陽光を浴びて刻一刻と様相を変えていた。ただ、それだけでため息が出そうになる。

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2004年、東京の雑誌社『自遊人』が南魚沼に米作りを学びに来てから早16年。
「米作りをするうちに景色の素晴らしさに気づき、この素晴らしい自然環境とともに米のうまさを体感、体験してもらいたいと感じました」と語るのは自遊人編集長で里山十帖のオーナーの岩佐十良さん。
そうして東京移住から10年後、2014年5月には宿がオープンしたのだった。毎度、田植えと稲刈りは人気イベントで、「春は残雪と新緑のコントラストがものすごく美しくて、秋は巻機山の山頂から紅葉が降りてくると山頂に雪が積もって……。この時期は毎日景色が変わるので正直、出張にも行きたくないくらい(笑)自然のダイナミズムをダイレクトに感じる時期ですね。春秋のいずれも2ヶ月間は大好きです」と岩佐氏。
そして、小野塚さんは「私は海外のスノーリゾートに出かけることが多くて、いろんな刺激を受けて日本に帰ってくるのですが、その意味でも南魚沼はまだまだ未開の地で、これからどんな風になっていくかが楽しみですね」

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▲学生時代にスキーに親しみ、新潟移住を機に新たにスノーボードを始めたという岩佐さん(写真左)。地元つながりで「いつかご一緒に滑りましょうね」と約束を交わす笑顔の二人。

地元、南魚沼の底知れぬ可能性について語り合う二人の話は尽きない。海外の良さを知っているからこそ日本固有の魅力をも発見できる。その先進的な眼差しがいつか素敵なコラボレーションを実現する機会を期待したい。

スタッフ自らの感動体験が活きた言葉となってお客様へのおもてなしに。

“さとやまから始まる十の物語”という10のコンセプトの一つに“食”のテーマがある。提供するのは地元野菜を中心とした滋味豊かな“自然派日本料理”。特に八寸(写真下)は保存と発酵を盛り合わせた雪国らしい一品としてご用意。また、素材は地元のベテランとともにスタッフ総出で山へと入り、天然の山菜や木の実、きのこなどを収穫することも。宿食に華を添えるのは、スタッフ自らの趣のある感動体験など。ここは、おもてなしの真意を再編集する宿。

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▲八寸

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施設のなかにセンス良く配されたライフスタイルの提案。

雪国越後の“木組み”を生かした梁。雪の重さに耐える奥行きのある天井が目を見張る。その伝統的かつ重厚な空間に北欧家具などが配され、シックかつポップに融合を果たす空間演出。行き着く先は“快適”であり、不思議な静謐が漂う。ここは都市や日常で見失いそうになるものを取り戻し再生してまた日常へと戻っていくための宿。里山に身を置いて、自然の美や有り難みに気づきたい。

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▼INFO
里山十帖
新潟県南魚沼市大沢1209-6
TEL:025-783-6777
(1室2名利用の場合)1泊2食1名様26,800円〜
(※税別・入湯税別・サービス料込)
http://www.satoyama-jujo.com
<アクセス>
東京駅から約1時間40分。
JR上越線大沢駅下車、送迎で約5分。
関越道塩沢石打インターから車で約10分。

<eternity>

攻め続けていて欲しい、未来の自分も。常に100%の全力で滑っていて欲しい。

未来の自分にかける言葉があるとしたら? という問いにその言葉は見つからないけど……、と若干の間が空いて、確かな口調でこう語った。「攻め続けていて欲しい、未来の自分も」
年々、女性アスリートとして体力の衰えは感じている。だが、いつでもメンタルは“攻める”方向に向かっていて、それは“戦い続けた半生”をも物語っていた。

新しく『FWT』の世界を切り拓いている渦中、これまで経験したことのない緊張感を抱えつつも、天性のアスリート魂には炎がついている。幼少から滑り倒してきた石打丸山のナイターが大好きだと話し、その気迫のコメントがオレンジ色に染まり、ゲレンデにこだましていくかのようだった。遠くには六日町の夜景が見える。
小野塚彩那は、この撮影終了とともに『FWT』第2戦が行われるカナダへと旅立っていった。

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