20歳から憧れたJeep
ギターを弾きながら欲しいクルマに乗れる姿を見せたい
「Jeepもそうなんです」
彼にとっては白いラングラーも、ギターヒーローの文脈に沿った存在らしい。
「20歳の頃から憧れていました。男らしい無骨なルックスで、僕の好きな音楽やギターと同じアメリカンカルチャーを代表するものだったからです。けれど高価なので、ようやく自分のものにできたのは2021年の6月でした。クルマ好きなDJの先輩に店へ連れて行ってもらって、先輩が買ったJLにも乗ったけれど、僕にしっくりきたのはこの白いJKだった。試乗しちゃったらもうダメで、ほぼ即決です。またしてもローンを組みましたが」
納車後そのままリハーサルへ。各地のライブも機材を積んで自走するので、すでに1万キロ以上も走っているという。
「ハンドルを握っているだけで誇らしい気分になれます。ライブで疲れた後でも気楽に運転できるのがいい。Jeepが仕事のモチベーションになっているのは間違いないですね。だからと言って、このJKがすべてに優れているわけじゃないんです。時に小回りが利かない大きさに困ったり、燃費だって決して良くはない。何より、ある程度の稼ぎがないと買えなかった。けれどそれって、レスポールと似ているんですよね」
『ギブソン』を代表するモデル、レスポール。その誕生から今年70周年を迎えるエレキギターの大定番だ。AssHは今年、アーティスト AIのツアーをサポートするのを機会にレスポールを購入したそうだ。
「レスポールには、重いとか弾きにくいとかいう評判もありますが、誰かが決めたことを言い訳にしたくないし、レスポールを使って僕ならではの音を響かせたかった。Jeepも同じで、デメリットとされる要素をすべて飲み込んで自分のものにする。運転が上手くなりさえすればどこにだって行けますから。そういう気概を持つことにカッコよさを求めるタイプなんです。それから、この世界の後輩たちにも頑張っていればJeepに乗れるんだと証明したい意地もありました」
▲AIさんのライブでレスポールをプレイするAssHさん。
これは、彼が繰り返し語るギターヒーロー像と密接につながる話だ。
「今の若い子たちは夢を描きづらいんですよね。あのクルマにいつか乗りたいという憧れがないし、そもそもクルマを持つ気にすらならない。それは時代背景もあって、現実的に生活がキツいですからね。ギタリストにしても、若い子たちには夢のあるカッコいい職業じゃないんです。たとえばスポーツ選手みたいに、スポンサーからクルマをもらえるような生活をしているギタリストはいません。だから僕は、少なくとも稼げるところを見せなきゃいけない。いや、お金持ちになりたくて音楽をやっているわけではないけれど、次の世代にいい影響を与えるのがギターヒーローなら、ギターを弾きながらも欲しいクルマに乗れる姿を示したかった。Jeepを手に入れて、それがいよいよ体現できました」
AssHが思い描くヒーローは、決してギターが上手なだけではないようだ。だが、その若さで他人のことまで考えなくてもいいだろうと思ったりもする。
「29歳という今の年齢が若いのかどうか、自分でもよくわかりませんが、忙しくてほとんど休みがなかった2021年にそんなことを考えるようになりました」
ギターヒーローの真の姿を?
「根性論とか口にしたら煙たがられるでしょうけど、僕は案外それを支えにしているところがあります。ギタリストでいられるために多くの人から与えられた幸福を、根性を入れてより多くの人にお返ししていく。往年のロックを知りつつ、今を生きるAssHでなければ出せない音で。そのために不可欠なのは、体に馴染んだギターと、新たに仲間に加わったJeepという身近で大切な存在です」
年内いっぱいは先に触れたAIのツアーに参加しながら、秋にはソロアーティストとしての楽曲リリースやライブを予定しているという。また先月末には、英語と日本語をネイティブとする4ピースバンド『Silver Kidd』を結成し、日本を拠点にグローバルな活躍を目指すという情報も解禁された。
新たな可能性を示すヒーローは不滅も条件だから、より大きな存在となりながらギターの魅力を、あるいはAssH自身が体感した、好きなものとの出会いで人生が変わる喜びを伝え続けてほしいと思う。そしてまた、その傍らには常にJeepがいてくれればと。
「最近、ルーフを開け放ったドライブにハマっています。思い立って夜の海まで向かうのが最高に気持ちいいんですよね」
Text:田村 十七男
Photos:Masato Yokoyama