世界初の〈ノルディスク〉コンセプトストアが見据える、東京発のキャンプカルチャー
車を買うことと、テントを買う行為は、似ている。
—カフェスタンドが併設されていて、〈フグレンコーヒーロースター〉のコーヒーやデンマークスタイルのホットドッグを購入できるのも特徴的ですよね。
山根:お店をつくるにあたって、イメージしていたのは、車を売るカーディーラーのショールームのような場所にしよう、と。〈NORDISK〉のテントは1つ10万円以上するものもあって、大きな買い物なので、車を買う行為とプロセスが似ていると思うんです。だいたい家族みんなでお店に来て、子どもはジュースを飲んだりしながら、お父さんはディテールを念入りにチェックしつつ、最終的に、嫁さんに決済をもらう(笑)。
1回の滞在で1~2時間かけるのは当然だし、売る方としても、ブランドの背景や、ひとつひとつの機能を知って納得をしてもらった上で、購入してほしい。そのプロセスを満たせる、最高の環境をつくることを目指しました。座ってゆっくりできるデッキスペースがあるのも、コーヒーやホッドドッグがあるのも、そういう理由からです。
街に暮らす人が「キャンプに行きたくなる」お店
—〈NORDISK〉のアイテム以外にも、さまざまなブランドの商品が並んでいますが、どのような基準でアイテムを選んでいるのでしょうか?
山根: 〈NORDISK〉に合う、根底のフィロソフィーが通じ合うことを前提に、「キャンプに行きたくなる」ギアやアイテムですね。すべて自分が使ったことがあるものの中から、機能的なだけでなく、感性を刺激するような道具やウェアを選んでいます。
ー感性を刺激するキャンプ道具。そのあたり、詳しく聞かせてください。
山根:北欧とか、アメリカなど、向こうの人達はとにかく「家族と自然を楽しむ」ためにキャンプへ行きます。そのための道具として、〈NORDISK〉もそうですし、いろんなブランドが生まれて、発達しているんですね。
—アウトドアやキャンプ用品ブランドの本場は、やはり海外、というイメージがあります。
山根:一方で、東京や、日本のひとたちって、キャンプをよりクリエイティブに楽しむ、という気質があると思うんです。着るもの・食べるもの・飲むもの、使う道具、全部含めて。
ー北欧やアメリカの人々よりも、見た目やスタイルにこだわる傾向がある?
山根:お洒落にキャンプを楽しむ、ということに、すごく長けているというか。この感覚は、日本人特有だろうなと思います。せっかくなら、いい道具を使いたい、というこだわりを持った人たちが多い。毎週末、日常の延長線上でキャンプへ行く北欧やアメリカの人たちと違って、街に暮らす人にとってのキャンプは非日常の要素が強く、楽しみ方の種類も人それぞれ。本を置いたりしているのも、利便性だけでなくて、気持ちの部分を刺激できたら、という思いからですね。
—眺めたり、手に取るだけでキャンプに行きたくなる、というのは〈NORDISK〉のテントとも通じる気がします。
山根:見た目もそうですし、たとえば〈マウンテンリサーチ〉は、山を登るときのスタイルとして、機能性オンリーの素材じゃなくて、ボタンダウンのシャツを着ることを提案しているんです。その姿勢は、〈NORDISK〉がクラシカルなコットンのテントを作り続けていることとすごく通じる部分があります。〈ナナミカ〉などもそうです。アウトドアに解釈を加えて、クリエイティブに物づくりをしている。〈NORDISK〉と、根底の部分が同じなんです。
—キャンプへ行きたくて、お店を訪れる人もいれば、このお店を訪れたことで、キャンプへの熱が高まる人も多そうですね。
山根:そうなってくれると嬉しいですね。実は僕自身も、道具がきっかけでキャンプに行き始めたんです。もともと道具自体が好きで、集めているうちに、「ちょっと行ってみようか」と。そこからハマりました。男って、とにかく道具が好きじゃないですか(笑)。車も道具のひとつですよね。どこか明確な目的地のために車を買う、よりも、車があることで、行きたい場所や可能性が生まれる。キャンプ道具も似たようなものです。
—そういえば先ほど、サラっと流してしまったんですけど、ここにあるものはすべて山根さんが使ったことがあるもの、なんですよね。
山根:そうですね。全部使ったことがあるもので、各ジャンルで「この道具を持っていけば間違いない」ものを選んでいます。いわゆるアウトドアショップに行くと、ランタンひとつ選ぶにも選択肢が多くて、何を買ったらいいかわからない。ここでは選択肢を少なくして、初心者の方でも道具を選びやすいようにしています。
—〈NORDISK〉ストアとして、おすすめのキャンプスタイル、これからのキャンプはこうなるとおもしろい、という展望はありますか?
山根:こうなって欲しい、こうあるべき、というのは全く無いんです。100人いたら、100のスタイルがあるとおもうし、ロケーション選びから、何を持って行って、何を食べて、どう過ごすか。キャンプにルールは無くて、本当に自由ですから。