フランス人が中国料理を作ると…… ワインとの素敵なマリアージュ
新橋の老舗中国料理店が、新しいスタイルの中国料理を提案すべく、大阪店を再開
東京・新橋に「ビーフン東」という潔い店名の約50年続く老舗の中国料理店がある。ちまきとビーフンを中心としたその人気店、もともとは大阪が発祥で、19年前までは東京・大阪で店舗を展開していたが、事情があり一旦クローズしていた。その「ビーフン東」が、大阪でも今年9月に復活を果たした。
大阪生まれ、東京育ちの3代目・東浩司さんが、大阪で復活を果たすのに、コンセプトとしたのは「フランス人が中国料理を作ったら?」ということ。「今の中国料理には新しいチャレンジが感じられず、停滞しているのではないだろうか」。そして「逆にフレンチの世界はいまでは日本の調味料、食材を使うなどして、新しい世界観を作り上げている」というのが彼の想い。そして、東さんはフレンチの料理人たちはいずれ、日本の食材に飽きたら中国に目が移るのではないだろうか、という仮説を立てた。そして、これから次代の中国料理を担っていく若い料理人に新しい道筋を示したいと考えた。それがこの店を作る動機となった。
赤坂「維新號」グループでの修業後、新橋「ビーフン東」の料理長となった東さんだが、実はソムリエ資格を持ち、アカデミー・デュ・ヴァンの講師も務めるというワインのエキスパートでもある。自らが得意な2つを結びつけた店がChi-Fuというわけである。
ワインとマリアージュする中国料理を作るため東さんがメニュー作りでもっとも注意しているのが、油と酢のバランスである。中国料理の特徴といえば、油通しをはじめとした大量の油使いであるが、Chi-Fuでは、油は極力少なく、また出来るだけ乳化させるようにしている。酢は中国料理では油を切るために用いられるが、ここでは調味料としてさまざまな酢を使い、強弱のバランスをつけている。
また、中国料理では食材を混ぜながら調理するのが一般的だが、ここでは一つ一つの食材を個別に調理する。それはたとえ、添えものの野菜でも同様で、ある素材は蒸し、ある素材は焼き、あるいはマリネする。盛りつけも、非常に繊細だ。厨房を見せていただくと、中華鍋がほとんどないし、油を使った形跡もほとんどない清潔感が漂う。それでも、料理については道具や油の使い方以外は、中国料理の技法だという。
この店の人気メニューである獅子頭という上海の昔ながらの料理も基本的には中国の伝統的なレシピを踏襲する。しかし、通常スープ仕立てで供されるこの料理をChi-Fuでは一度揚げたものを煮て、最後に蒸して旨味を閉じ込めるという手間をかけている。その結果、見た目とは違ってとても柔らかく、口の中ではふわっとしてあっという間に崩れ、豚肉の旨味だけが口の中に残る。そこに、スパイシーな赤ワインを注ぎ込む。フランス料理にも決して負けないマリアージュの完成だ。
東さんは言う「東京に移り住むようになる前、子供のころからこの場所で店を引き継ぎたかったんです」。一時、その想いも薄れた頃はあったが、20歳のときに改めて、大阪の店の再開を心に決めた。それから10年かけて生まれかわった「ビーフン東」はこれからの中国料理の世界の先頭を行き、後輩の道標となるべく「Chi-Fu」=師傳(先生)となってよみがえった。