着る人の心に残る”引っかかり”を 感じるモリカゲシャツ
道具として、日々の暮らしに溶け込む
京都発のシャツメーカー
人が何かに出会ったとき、それに対して「好き」かどうかを判断する基準はどこにあるのだろう。見た目、手触り、雰囲気、存在感……。直接の理由はそれぞれでも、要はいかに”引っかかり”を感じるかということに尽きるのではないだろうか。
京都発のシャツメーカー『モリカゲシャツ』の製品に多くの人が魅せられる理由も、そこにあるのではないか。一部のパーツだけ違う生地を使っていたり、ドレープができるようボタンホールの位置を絶妙に調節したり。シンプルななかにさりげなく遊び心を配した、どこか愛嬌のあるシャツ。京都にある本店とオンラインでの販売のみという限られた販路ながら、全国にファンを持つ理由をそこに垣間見ることができる。
「僕らの仕事は、まずは見つけてもらうことだと思っているんです。シャツなんて着るものだから、手に取って、使ってもらわないと話になりません。そのためにはどうしたらいいか突き詰めたら、手入れが楽で、デザインがよくて、値段も買いやすくて、ということだった。それをやり続けて積み重ねたものが『モリカゲシャツ』になっていた感じです」と話すのは、『モリカゲシャツ』代表の森蔭大介さん。デザインの”引っかかり”、そして道具としての扱いやすさに加えて、顧客との顔が見える営業も大切にしているという。
「昔の八百屋って、お客さんのプライベートに踏み込む感じがあったじゃないですか。それこそ『今日ちょっと顔色悪いけど大丈夫?』みたいな(笑)。そういう、相手がきちんと見えるようなことをやりたいという気持ちが強くて。それでオーダーメイドの店をやっているうち、行き着いたのがシャツでした。できるだけわかる範囲でやりたいから、卸売りはせずに直営店と自社のオンラインだけで販売しています。それが買う方も安心だと思うし、僕らにとっても心地いいんです」
2011年12月には、そんな想いを結実させたショップ『モリカゲシャツかまくら出張所』をオープン。週末だけの営業で、営業日に合わせて京都からスタッフが上京するスタイルをとった。5坪ほどしかない小さくシンプルな店構えが特徴で、まだ指で数えるほどしか営業していないが、滑り出しは好調だという。「オンラインでお買い求めいただく関東方面のお客さんが多いので、実物を見たり試着していただきたいと思ったのがオープンのきっかけです。ゆくゆくはここでオーダーシャツも扱えるようにしたいですね」と話す。
人の心に残り、愛されながら生活に溶け込んでいく『モリカゲシャツ』。今後の目標を訊ねると……。
「これまでと同じことを、ただブレずにやり続ける、ということですかね。京都にいたら、(数百年続く老舗ばかりなので)15年ぐらい続けていてもなんてことないですから」と笑う。
が、同時に正反対の試みもあるとか。
「ただ、海外での販売を少しですが始めています。日本でのシャツの歴史は100年もないぐらいで、海外には到底およびません。でも僕は、日本のシャツには力があると思う。そんな日本人の作ったシャツを海外の人に着てもらいたいんです」と続けてくれた。
伝統と革新を求める京都のメーカーならではの野望。今後の展開に期待したい。
モリカゲシャツ