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2021.11.25

母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

新しい家族、新しい趣味、そして新しいJeep。優れたアスリートとして、誰も見たことのない地平へ自分だけの道程で歩んできた事実は承知していたが、ひとりの女性としてもさらに先へ進んでいたとは……。RealStyleで追い続けているプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今をたずねるため、新潟県にある秘密のキャンプ場へ。久しぶりに会った小野塚さんが、ママになっていた!

大人になっても遊ぶといえばアウトドアになってほしい

「とてもハッピーだけど大変。お母さんをやるのって、どんなトレーニングより辛いかも」

1-1 母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

1歳に満たない我が子を抱きつつ苦笑いで口にしたその言葉から、直感的に何をフィーチャーするかは聞き手で変わってくるのかもしれない。いずれにせよ、男性で育児経験のないインタビュアーがその場で率直に思ったのは、母になった女性はなぜこうも自然に上手に赤ちゃんをあやせるようになるのか、という不思議だった。
最後に小野塚彩那さんと会ったのは、2年半前の2019年3月。住まいがある新潟から待ち合わせの軽井沢まで、愛車の『ジープ グランドチェロキー アルティテュード(Jeep Grand Cherokee Altitude)』で乗り付けてくれた。

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そのときの主題は、国際的なスポーツイベントでの銀メダル獲得や世界選手権優勝など華々しい成績を残したハーフパイプから、自然地形の雪山を滑るフリーライド転向への心境だった。
転向と言えば小野塚さんは、ハーフパイプの前にはスキー技術の全日本選手権で活躍した経歴もある。要するに現在で3種目に挑んでいるわけだが、本人としては2歳で始めたスキーの神髄を今もって追求し続けているだけなのかもしれない。
ただしフリーライドは、前回の取材で自ら「死が垣間見える世界でもある」と語ったように、競技としての過酷さは彼女にとっても過去最高レベルに違いないだろう。
“にもかかわらず”と前置きさせてもらうが、2020年12月の出産からわずか2か月後の2021年2月、白馬で開催された『JAPAN FREERIDE OPEN2021』に出場。「思うように体が動かず、内容的にも満足していない」としながらも、SKI WOMENの部で優勝してしまうのである。

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その驚異的なアスリートスピリットをたずねるのが今回の主題だ。けれど目の前で手際よくキャンプ支度を整える小野塚さんからは、穏やかな雰囲気しか感じ取れない。それは母になる前の彼女がそなえていたものと大差なく思えた。ただ一点、決して愛息から目を離さない行動と意識は、見る者以上に小野塚さんにとっての大変化と言っていいだろう。

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「こういうの、ずっとやりたかったんです。日常的に雪山に行くので、わざわざアウトドアな趣味を持たなくてもと思われるかもしれませんが、フィールドはあくまで仕事場ですからね。今年は子どもと主人と3人、それからJJも連れて、クルマで1~2時間の場所へよく出かけています」

5-1 母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

JJはフレンチブルの名前。リードから解放されると的を忘れた弾丸のように無軌道で走り回っていた。
「妊娠4ヶ月目で飼うことを決めました。私が幼い頃から犬と暮らしてきたのもあって、子どもの成長にいい影響を与えてくれるかなぁと思ったからです。キャンプもそうです。この子には大人になっても、遊ぶといえばアウトドアになってほしいんですよね」

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今度の冬はラングラーの出番が増えるかもしれない

一気に賑やかになった小野塚さんの暮らしをさらに広げたのは、2021年9月にやってきた限定モデルの『ジープ ラングラー アンリミテッド ウィリス(Jeep Wrangler Unlimited Willys)』だ。これはご主人の桑本旅人(くわもと・たかひと)さんが長年抱いていた夢だったらしい。

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fe876fb9bfa8a84003f983b6472fe557 母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

「彼女が参戦した海外のX Gamesについていったとき、現地で初めてラングラーに乗って“これだ”と思って以来、ずっと欲しかったんです。それからずいぶん経ちましたが、今年になって自分が仕事で使っている国産のワンボックスを車検整備に出した際、何とかラングラーを代車にしてもらったら、やっぱり“これしかない”ということになったんです」

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そんな思いを打ち明けられた奥様は、半ば冗談でこう返したそうだ。
「ハンコを押せば誰でも買えるよって。そしたら本当に買っていました」
もっとも新しい家族となったスティンググレーのラングラー。グラチェロ乗りを自負する小野塚さんは、Jeepのラインナップでグランドチェロキーと双璧をなす無骨さに魅力があると感じている。

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「仕事柄、長距離移動が多いので高速道路ではグランドチェロキーの、しかもアルティテュードの快適さが勝つとは思うんですが、キャンプや雪山ではやっぱりラングラーに乗りたくなりますよね。今年の冬はラングラーの出番が増えるかもしれません」

12-1 母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

一家に2台のJeepがある場合、子どもはどちらに乗せるのだろうか。
「チャイルドシートは2つ用意してあります。いずれもISOFIX対応なので脱着が簡単で安全なのがうれしいですね」

13-1 母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

いかにも母親らしい観点だと思った。そのあたりをより所にして世間は、または男性の聞き手は、小野塚さんを“ある一つの型”にはめようとする。たとえば、悪意の欠片もなく「ママでも現役」と呼ぼうとしたり。
それこそが古い社会通念。多くの女性たちの行く手を阻み続ける障壁がいまだ存在している現実を、小野塚さんは柔らかく語り始める。高みを目指して心身を鍛えてきたアスリートであっても、母になった途端、おぼろげに見えていた壁に直面した事実を基に。

14-1 母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

“あの人ができたなら私も”と思ってくれる人が増えたら

「天職だと思っているんです、この仕事。だから、子どもができて何かを諦める考えはなかったし、母になっても私のマインドは以前と何も変わっていないんです」

15-1 母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

それが産後2ヶ月であれ競技復帰を実践した理由の根源だ。出産予定日と大会のスケジュールに鑑みて出場が可能なら出ておく。今季よりも来季以降のために。
「調整が間に合わないのはわかっていました。実際のところ、最盛期とは言わないまでも満足できるレベルに戻すには、次の次のシーズンまでかかると思っています。思い立ってトレーニングする自由さえなくなりましたから。もちろん主人は協力的で、子どもの面倒も積極的に見てくれます。周囲のサポートも、たぶん普通のお母さんより厚いんですよね。自分から望んで参加させてもらったTHE NORTH FACEのアスリートチームもまた、母親になった私を喜んでくれています。ただフィールドに出てまで搾乳しなきゃいけないとか、何があっても絶えず一日中母親でいる感覚というのは、いっしょに子どもを育てている主人にも理解はできないと思うんです。でも、子どものために犠牲になっている気持ちはないんです。これはしょうがない。母の仕事は私にしかできませんから」

16-1 母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

そんな妻の思いを、夫はどう捉えているのだろうか。
「僕はひたすら彼女を支えたいです。トレーニングと子育てを両立させている姿は本当に凄いと思いますし、何より身内であってもずば抜けたアスリートですからね。種目を変えながらもスキーの魅力を伝え続けている人は彼女くらいです。復帰戦に臨む前にはこう言いました。“小野塚彩那なら負けないでくれ”と。それならもっと練習させてくれって返されましたが……」

17-1 母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

「ロールモデルになったらいいのかなぁと」これは小野塚さんの言葉。
「SNSでは批判的なメッセージも出ますけれど、その一方で“あの人ができたなら私もやってみよう”と思ってくれる人が一人でも増えたら、私の活動の意味も膨らみますよね」

最後の質問は、今後の目標について。
「ずっと変わっていないですよ。母親になっても、アスリートとしてオンリーワンであること。同じことをしている人が日本にはいないので、これまでにも日本人初とか女子初とか、あまり好きじゃない言われ方をしてきましたが、そういうのと関係なく自分だけの挑戦を続けていきたい。あとは、死なないことです。フリーライドは危険が多いのですが、恐怖心がなくなったらできない競技ですし、家族に会えなくなるのは嫌ですもんね」

18-1 母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

常に淡々と、時に笑顔を交えながら語る小野塚さんの姿は、確かにこれまでと何も変わっていなかった。というより、変わらない強さを改めて見せられた思いがした。
そんな感動とは別のところで、育児経験のない男性は実に些末な興味を抱いた。グランドチェロキーとラングラーがあるうえに、キャンプ好きな両親の間に生まれた男の子はどのように成長するのだろうか? Jeep好きにすればそれほど恵まれた環境はないと思うだけに、彼の今後も楽しみで仕方ない。

19-1 母になってもオンリーワンであること ~家族が増えたプロスキーヤー・小野塚彩那さんの今~

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