自分のスタイルを貫いてこそのオリジナル
レディー・ガガのシューズで一躍脚光を浴びたデザイナー舘鼻則孝さん。
彼のものづくりを支えるのは、日本古来の伝統技法だった
2010年の春まで大学生だった男が、1年半後の今、世界が注目するデザイナーのひとりとして、多くのメディアを賑わせている。それも自分の腕ひとつで。彼の名は、舘鼻則孝。自身の名前を冠したブランド『NORITAKA TATEHANA』のデザイナーだ。
舘鼻さんを一躍有名にしたのが、奇抜な衣装で知られるアーティスト、レディー・ガガが履く強烈なデザインのシューズ。これを手掛けているのが彼なのだ。ガガ本人に認められた独創性の高さ。実はこれ、日本の伝統技術に裏付けられたものだった。
舘鼻さんが在籍していたのは、東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻。彼が大学で日本の伝統技法を勉強したのには、ある狙いがあった。
「ファッションデザイナーになろうと決めた時から、やる以上は洋服の本場であるパリやニューヨークで活躍したかった。そのためには、自分が日本人であることがプラスになるようなバッググラウンドをもつことが重要だと感じ、大学で日本のファッション、つまり着物について勉強したんです」
そして、彼は友禅染をはじめ、日本古来のさまざまな技法を習得。それらは今の舘鼻さんのクリエイションにとって、なくてはならないものとなった。例えば、シューズに使われているレザー。その加工法には彼が培ってきた数々の技術が注ぎ込まれている。
「日本での染色は、顔料を使ってラッカーで仕上げてしまうことがほとんど。この方法は、ムラなく均一に染められますが、色が革の表面にのっているだけなので、ボクから言わせれば、あまり美しくない。だからボクのシューズには、染料を使って自分で手染めした革を使っています」
染料は顔料と違い繊維に色が染み込むので、革の風合いを生かすことができるのが特徴だ。
「手で染めることによって色合いに微妙なムラができ、それが味となったり、色に深みが生まれます。透き通るような透明感も手染めだからこそ表現できるんですよ」
革に凹凸をつけて装飾するエンボスと呼ばれる加工法も独特だ。通常は金型を使って機械で凹凸をつけるが、彼はハンマーによる手作業で行う。「機械的な作業のほうが効率は良いのですが、狙い通りの仕事をするなら、ハンマーで叩いたほうが確実です。金型を使った工業製品的なやり方とは違い、手作業なら微妙な加減で模様を押すことができますから。こうして繊細なニュアンスを表現することで、モノの見え方は大きく変わってくると思います」。しかもシューズの思い通りの場所に思い通りの模様をつけるため、パターンを引いてから、この加工を行うのだという。
「技術も作り方も、自分なりのやり方を見つけないと新しいものを生み出すことは難しい」。そう語る舘鼻さんは、洋服も靴も作り方を誰かに習ったわけではない。すべて本や実践から学んだ独学。それがまた彼の強みでもあるからおもしろい。
「最初は世界で初めて靴を作った人みたいに、何にも頼らず、自分の頭で考えながら、どうにか靴を作ってみたんです。自分の足を粘土で作って、そこに紙を貼ってパターンをとったりしながら。なにを作るにしても、この過程を体験するのは大きいと思いますね」
だからこそ常識にとらわれない自由な発想が育まれるのだろう。成果のひとつとして、レディー・ガガお気に入りの独創的なシューズが誕生したのだから。
舘鼻さんにインスピレーションの源を聞くと、古いモノという答えが返ってきた。「モノが生まれた当時の時代背景っておもしろい。そうした歴史的な知識を、自分のフィルターを通して今の時代にどう表現できるか? 今の時代を生きる自分にしか作れないものが作れたらいいなと思います」
NORITAKA TATEHANA
BOUTIQUE NORITAKA TATEHANA
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