Food

2012.01.20

目指したのはバルではない 現代大阪的居酒屋

たばこ屋の軒をくぐると、
めくるめくワインと美食の世界があらわれる

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    さばのキズシ(¥500)はこの店を象徴するようなメニュー。リンゴと玉ネギのソースをかけたことでワインにも合わせやすい。
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    軽く燻製し、ひと手間を加えた蝦夷鹿のパテ(¥500)なんていうメニューも普通にオンリストするところが面白い。アケガラシともろみ味噌をあわせて。
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    左から横山シェフ、今尾さん、サービスの蔡さんという仲間3人で開いた。
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    この冷蔵庫から酒はセルフで。立ち飲み居酒屋のノリである。
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    大阪のオフィス街の外れ、民家とオフィスが共存する街にポツリ。テントにも味がある。

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十分に香りがあって驚くほど安いからとたっぷりかけられたチベット産トリュフのタヤリン(¥1,000)はジャガイモと黒コショウだけグラーナパダーノのシンプルな味わい。

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今尾さんのお祖母様は入口のたばこ店の担当。この店のアイドル的存在である。

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「ましかの楽しみ方」なるレクチャーも。

「ましか」という店名の意味はわからない。わかっているのは、この店の店主である今尾真佐一さんのお爺様が始められたハンコ店が「真鹿堂」であったこと。その名を取って、現在の地にお母様が手作りサンドイッチの店を26年前に、その後店頭でお婆様がたばこ店を始めたのが、この「ましか」のはじまりであるということだけだ。店の前のテントには今でも開店当時の「手作りサンドイッチの店」という言葉が掲げられたままだ。そして、その余計なこだわりのなさこそが、この店の一番の魅力である。

今尾さんは、関西ではその名を知られた自然派ワインを扱うワインバー「パシオン・エ・ナチュール」で開店以来店長を勤めた人物。そして、料理を担当する横山シェフもこれまた関西を代表するイタリア料理店「ポンテベッキオ」をはじめとしたイタリア料理店で修業を積み、大阪・淀屋橋の「オッティミスタ」では料理長まで務めたという。自然派ワインを知り尽くしたソムリエと関西イタリアン最高峰の店のシェフというどんなスタイルのレストランでもできそうなスタッフで作った店が、たばこ屋の奥で営業するカウンタータイプの飲み屋という選択が大阪らしく面白い。スペックあるいはディテールといった知識、見た目などから入らずに、旨いものを安く、そして楽しくという方向で店作りをおこなった結果がここにある。

この飾り気のなさ、気軽さ、地元との密接度はまさにスペインのバルを彷彿させるが、それについても今尾さんは「バールだのバルだのは意識していません。作ってみたらハコが少し洋風になったくらいです。シェフはイタリアン出身ですが、普段、大阪の人が食べたいと思うメニューを置いていこうと思います」と語る。ソムリエとイタリアンの料理人の店だけに、どうしても構成は「洋」が中心になあるが、写真のキズシのほかにカレーや麻婆豆腐などもメニューに載る日があるほどフレキシブル。横山シェフも「最初は戸惑いがなかったといえばうそになりますが、カウンターでお客さんと直接コミュニケーションが取れるし、なによりもジャンルに関係なく自分が美味しいと思うものを出せるというのはいいことかもしれません」

訪れる客もそれだけベースがしっかりしているスタッフの店であることなど意識しない。ただ「他の居酒屋にはない旨いもん置いてるなあ」とついつい足が向くというだけだ。スライド式の冷蔵庫からセルフで自然派ワインやビール(しかも世界中の珍しい銘柄)を取り、パテとキズシとパスタをほお張る。あれこれ食べて、飲んでも2,500円くらいの会計。

何も意識せずにこんなにすごいものを驚くほどリーズナブルに飲み食べしている大阪の人びとはなかなかの幸せものである。