文字を書く楽しさを見つけてみませんか?
お気に入りの万年筆を手にしたり、自分だけのノートを作ることで、
書く喜びを発見できるショップ。
モノづくりの街として知られ、昭和風情の残る景観が魅力の蔵前。街のメイン通りのひとつ、国際通りにその店はある。名前は「カキモリ」。”たのしく書く人。”というキャッチフレーズや、”書き人”をカタカナにした店名が表すように、ここはその場でつくるオリジナルノートや、国内外からセレクトした万年筆やボールペンなどのステーショナリーグッズを扱う文具屋だ。店主をつとめるのは広瀬琢磨さん。実家は群馬で、祖父の代からなんでもそろう文具屋を営んでいるという。そんな彼が「愛着の湧くような文具に出会って、書くことの喜びや大切さを感じてほしい」と、独自にオープンしたのがこの店である。
店内は、矢羽模様に彩られたフローリングの床や壁が印象的で、ところどころに嵌め込まれたカラフルな板がアクセントになっている。落ちついた佇まいでありながら、ポップでワクワクするその雰囲気は、蔵前っぽいけど蔵前じゃない店構えを目指した結果だという。そこに並ぶのは、ペンにしてもノートにしても、デザイン的に魅力的なアイテムばかり。「書くことのきっかけづくりとして、まずは手にとってもらえるようなものを選んでいます」とは広瀬さん。とはいえ、それらはただ見た目がいいだけではない。当然ながら書き心地や書き味にも優れたものばかりである。「特に試してもらいたいのが万年筆。不思議と字がうまくなった気分になれるので、書くことが楽しくなりますよ」。ほかにペン先をインクに浸して書くガラスペンも揃え、万年筆とともにすべて試し書きができるのが嬉しい。「これまで手にとったことのない人にこそ使ってほしい」と、万年筆は気軽に購入できる1000円台から用意されている。高額なものでも「手の届く範囲の高級品」と広瀬さんが言う3万円ほど。特に国産メーカーのものは、値段の割に質が高いのでオススメだと言う。そして、もうひとつの人気アイテムが、好きな表紙や紙を選んで作るオリジナルノートだ。こちらも当然、書き心地や書き味にこだわった紙がセレクトされている。例えば、旧三菱銀行が、三菱製紙に作らせていたバンクペーパーと呼ばれる紙。これは銀行にまだコンピュータが導入されていなかった時代に使われていた帳簿用紙だ。万年筆との相性は抜群で、スラスラとペン先が滑っていく感覚が心地よい。また英国王室御用達としても知られるコンケラー社製の便せん用の紙を使ってノートを作ることも可能である。オリジナルの紙も、無地、罫線入り、ドットの3タイプが用意されている。罫線とドットは万年筆で書かれたもので、広瀬さん自身が施した。「特に罫線にはこだわりました。線と線の間隔は7.7mm。これは自分が万年筆で何度も文字を書いてみた結果、最も書きやすかった幅なんです」。すべて同じ紙でもいいが、数種類の紙を組み合わせれば、さらに個性的なノートが誕生する。表紙用にはコットンやリネンを使った紙のみならず、革も用意され、さらにリングの色も5色から選択可能。数種類用意されたゴム留めや紐留めをつけることができたり、紐留めの紐の色まで選べるので、自分好みのノートをとことん追求することができるのである。パーツが決まれば、レジの奥に置かれたアメリカ製のリング製本機を使って、すぐに自分だけのノートが完成する。もうなにか書かずにはいられない気持ちになること請け合いである。ちなみにこの作業風景は、およそ2.5×2mほどの大きな窓ガラス越しに、外からも見えるようになっている。「そば屋が手打ち作業を見せるように、ノート作りの様子をわざと見せて、モノづくりの街の雰囲気に溶け込むようにしたかったんです」。実際、作業風景を見たことがきっかけでお店を訪れる人も多いそうだ。
「自分自身、ペンを使って文字や絵などを書くことで、より物事を深く考えることができるし、新しいアイデアも浮かんでくる。この店をきっかけに書くことを好きになり、気持ちが豊かになってくれたら嬉しいですね」。パソコンや携帯電話で文字を書くことが主流の時代だからこそ、訪れてみたいお店である。
カキモリ