Jeep Wrangler×プロスノーボーダー中村陽子
自分だけのラインを描く。フリーライディングという終わりのない旅
怪我や病魔を乗り越えて、しなやかに旅を続ける中村陽子。自身の思いに忠実に、ひたむきに……。そんな表現者が描く、独自の世界とは。
アラスカで思ったんです。これこそがスノーボーディングだな、って。
「そのラインを攻めないと、絶対に後悔すると思ったんです。だから、ちょっと危険かもしれないけどトライしてみよう、って」
10年前のその日、彼女は初めて訪れるアラスカはバルディーズの稜線に立ち、心を研ぎ澄ませていた。憧れ続けた山々は圧倒的なスケールで迫ってくる。足下が見えなくなるような傾斜とそれが生み出すスピード感、スラフと一緒に、岩の間を縫うように滑るのも、初めてのこと。あとから知ることになるのだが、そのラインを滑り抜けた女性ライダーはいなかった。
それでも、彼女にはどう滑ればよいかが見えていたという。ぎりぎりのロック地帯が続くシュートを切り抜けると、斜面下の観客から割れるような歓声が鳴り響いた。
「そのとき初めて聞いた言葉なんだけど、『You are so sick!』って。おまえヤバいねみたいな意味なんだけど、みんながそう言って盛りあがっているのがたまらなく嬉しかったんです。言葉は通じず、だれもわたしのことを知らないなか、純粋に滑りを評価してくれている。そのとき思ったんです。スノーボードって最高だね、わたしのやるべきことはこれだよね、って!」
こうして彼女は、初参戦した「FWFC」で2位に。一年後の同大会では見事優勝に輝いている。
プロスノーボーダーの中村陽子がスノーボードに出会ったのは大学2年生のとき、一緒にスケートボードを楽しむ先輩に連れられたのがきっかけだった。
アマチュア時代にハーフパイプのプロ大会で優勝すると、24歳でプロ資格を取得。順調に滑り出したスノーボード人生だったが、その後、思うように成績は伸びなかった。そうして27歳のときに大腿骨骨折という大怪我を負う。
「元々、大会期間外はフリーライディングを楽しんでいたんです。それで怪我を機に、フリーライドに転向しました」
当時、女性スノーボードシーンは、滑り以外の要素に重きが置かれていた。自分らしさを求めてようやくフリーライディングにたどり着いたものの、真摯にスノーボーディングに打ちこむほどに、周囲との違和感は大きくなっていた。前述の世界大会での準優勝は、20代をスノーボードに捧げ30歳を迎えた彼女の、一世一代の大勝負だった。このときの心情を、彼女はこう綴っている。
あの日、間違いなくなにかが変わった。いま思えば、結局周りがどうとかじゃなくて、自分自身がライダーとして挑戦し続ける覚悟を決めたかっただけなのかもしれない。
「アドレナリンが出るというのかな、あそこじゃないと体験できないものが確実にあります」
その後、毎年、アラスカ行きを繰り返した。ある年はひとりで、ある年は仲間とともに。そうして世界を広げるなか、2016年、バルディーズでハートフィルムの撮影クルーとの再会を果たした。
「国内の上映会では会っていたけど現場では初めて。そこで興味を持ってくれたのか、翌年から撮影に参加することになったんです」
ハートフィルムは映像作家の田島継二を中心とし、カナダやアラスカを中心に、雪を求めて世界中を旅しては上質のスノームービーをリリースし続けるフィルムメーカー。彼女は翌春のアラスカでの撮影を楽しみにしていたが、予定は急遽、変更となる。
「わたし乳がんだったんです」
1月の終わりに痼りを見つけて病院へ。3月頭には悪性腫瘍の乳がんであることが判明する。早期発見であったことが幸いし、進行度はステージⅠ、リンパへの転移も見られなかった。4月には無事に手術を終わらせている。
「その間、自覚症状はないから、発覚前にエントリーしていた天神平バンクドスラロームに出場して、優勝しているんです」
いたずらっ子のような顔で笑い、手術前に利尻島でも滑ったことを教えてくれた。日本海に突き上げる1,721mの頂をもつ利尻島には、アラスカに迫る緊張感が漂う。そんな空気が、病魔に冒され彼の地を思う彼女に力を与えてくれた。
「一度きりの人生だから、好きなことを納得いくまで追い求めたい……。そんな思いがより強くなったかな」
人生は一度きり。「最高の人生だった」と笑える自分でありたい。
中村陽子が『ジープ ラングラー(Jeep Wrangler)』との旅に選んだのは思い出の地、利尻島。窓の外を懐かしい景色が流れてゆく。彼女はかつてジムニーを乗り回し、アラスカでは数千kmにわたりキャンピングカーを走らせてきた。いまは家族との旅や冬の日課である愛犬2匹との雪遊びを楽しむため、ワンボックスカーに乗っている。そんな彼女がクルマに求めるものはなんだろう。
「いざというときの、雪上での走破性はもちろんですが、長い距離の移動や普段使いではオンロードでの快適さも重要ですよね」
ハンドルを握り、嬉しそうにそうこたえる。北海道はもちろん、本州の山へも出かけるので、ゆったり車中泊できる広さをもつモデル、『ジープ ラングラー(Jeep Wrangler)』は彼女の旅と相性がいい。
「それに加えて安心感と重厚感があります。島ではちょっと目立っちゃうくらいかっこいいところもお気に入りです」
フロントガラスは、北国の春を写し出している。
アラスカへの焦がれるような思いを抱きつつ、ハートフィルムとの旅でよい作品を残したい……。現在の心境をそんなふうに語る彼女は、競技よりも表現することが合っていたのだと笑う。
「一本のラインに、その人の軌跡が現れると思っています」
自然と自身との隔たりを、培ってきた想像力と適応力を駆使して、重ね合わせてゆく。
「そうして、わたしだけのラインを見つけ出したいんです」
見る者の感動は、表現者の背景に引きこまれるものではない。彼らの生み出すラインに自身を投影し、刹那の交差に心を震わせる。だからこそ、百万の言葉を用いても伝えられないことがあるし、一輪の花に心を寄せることもできる。
「結局、自己満足だと思います。だからこそ、人生をかけてきたものを現して、こいつヤベえなと思ってもらえたら嬉しいです」
■今回のインタビューの様子を動画でもご覧いただけます。
●プロフィール
中村陽子(Yoko Nakamura)
1981年北海道生まれ。19歳でスノーボードに出会い、24歳でハーフパイプのプロに。その後フリーライディングに転向。乳がんの手術後は「Ride for New Gun」を開催し、早期発見の大切さを呼びかけるほか、BBAskate部を主宰するなどマルチな活動を展開
今回使用したクルマ
『ジープ ラングラーアンリミテッド ルビコン(Jeep Wrangler Unlimited Rubicon)』
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Text:Koki Aso
Photos:Keiji Tajima