植物を求めて世界中を駆けめぐる、 プラントハンターという生き方
ファンタジーとマニアックが同居する、
唯一無二のボタニクル・ガーデン
「これは黄桜、こちらはしだれ富士桜、これはさくらんぼ、そしてこれはプリンセス雅……。こっちは虎の尾桜で、ぼんぼりみたいな花をつける。これは雲竜桜。こういうでかいのは俺しか手に入れられないやつです(笑)。背丈はたった2メートルしかないのに、何百と枝わかれしていて、めちゃくちゃかわいい花が咲くんですよ」
熱っぽく桜のことを語るのは、プラントハンターという職業を世に知らしめた、清順さん、その人だ。この日は昨年秋にオープンした複合施設、代々木VILLAGE by kurkkuの庭に桜を植え替える作業の日。清順さんは敷地のほとんどを占める庭のプロデュ―スに全面的に関わっている。
“プラントハンター”とは、古くは17世紀から20世紀中期頃までにヨーロッパで活躍した職業で、王族や貴族の観賞用植物の新種を求めて世界中を探検・冒険する人のこと。清順さんのスタンスはその時代とほぼ同じだ。地を這い、木に登り、崖にへばりついて、待っている誰かのために植物を探して届ける。それは時には世界の果てまで探しにいくこともあるし、そのオーダーが14トンものボトルツリーを海外から運んでくることだったこともある。生け花のために紅葉した枝をと言われれば、たとえ時季が過ぎていたとしても、必死で探す。そして今は、桜の開花のために鹿児島から北海道まで日本中を飛び回って、多種多様な桜の枝を集める毎日だ。
「プラントハンターって、若い俺が名乗ると誤解を招くかもしれないんだけど、すごく伝統的な仕事で、知識も、体力も、技術も、遊びごころもいる。プロの職人の世界なんです」と清順さん。
今では植物の話は尽きることはないという熱愛ぶりだが、花・植物卸問屋「花宇」の五代目に生まれながら、野球や格闘技に夢中で、21歳までまったく植物に興味がなかったという。語学留学先のオーストラリアからボルネオ島へと旅行に出かけ、キナバル山に登ったことが清順さんの人生を大きく変えた。
「頂上にいけばいくほど、熱帯から亜熱帯、温帯から寒帯と温度がどんどん下がっていって、生息する植物もどんどん変わっていくのがドラマティックで。そして、世界最大の食虫植物ネペンセス・ラジャに出合えた。”自分が考えるよりも植物ってすごいもんとちゃうか?”と、その感動は言いようのないものでした」
清順さんは、そのときの体験がきっかけで植物の持つ魅力にぐいぐいと惹き付けられ、プラントハンティングの世界にどっぷりつかることになった。今では植物のない人生は考えられないぐらいだ。
代々木VILLAGEの庭には、「こうもりたちの食糧」「100年に一度咲く花」「突然変異」「性なる木」「世界一痛いサボテン」などと書かれた、好奇心をくすぐるキーワードが書かれたボードと共に、見たこともないようなユニークな植物が点在する。そのどれもが、清順さんが世界中から集めた希少なものばかりだ。
「なんだか、ムーミン谷からムーミンやらニョロニョロが出てきそうでしょ? ファンタジーの世界ですよね。見た人がもっと五感をつかって楽しめるような庭にしたかったんです。よくある標本的な、熱帯雨林地域の植物はここ、南米の植物はここ、みたいなことはやりたくなかった」
清順さんにとって植物に対する愛情は、恋愛にも似ている。「人間だったら恋人は1人じゃないと怒られるけど、植物だったら怒られないし(笑)。すごくセクシーな植物もあれば、いろんなタイプがある。花も咲いているときだけでなく、冬枯れの美しさに感動したり…。別格なのはやっぱり桜。自分が日本人だということもあるんでしょうけど、他の木とはオーラが違うんです」
植物の魅力に触れ、知ることにより、ひとりひとりの心のなかにそれぞれの植物園ができたら素敵だと、清順さん。30000本の桜のなかで花見をしたという数字の部分ではなく、1本でも心から美しいと思える桜の記憶。そのことがきっかけになって、すこしでも植物のことが気になる人が増えていってほしい。そういう思いから、植物コンサルティング事務所「そら植物園」を同代々木VILLAGE内にオープンした。
「産声をあげたばかりですが、いろんな人たちと植物を用いたさまざまなプロジェクトが実現するといいなぁと思っています」
清順さんの自然と植物の可能性を広げる挑戦は、まだ始まったばかりだ。
代々木VILLAGE