カッターナイフメーカーが立ち上げたアウトドアブランド。その本気をたずねる
道具としての機能を徹底的に追求したカッターナイフをつくり続けるオルファ。Jeep好きでもある代表取締役の岡田真一氏にものづくりの信念を聞いた。後半では、アウトドアファンに使ってほしい新ブランドのアイテムを紹介する。
もしカッターナイフが発明されなかったら、困る人はきっと多かったはず
Jeep好きの経営者は、おそらくかなりの数に上るだろう。しかし、好きなあまり社用車にまで選ぶケースとなると相当に絞られてくるに違いない。さらにはその会社がJeepファンに好まれそうなプロダクトを世に送り出しているとなると、これは奇跡的な縁と言っていい。
さておき、ここで質問。刃を折ることで切れ味を保ち続けるカッターナイフを発明した国はどこか? そのカッターナイフのトップブランドであるオルファの本社はどの国にあるか?
答えは、いずれも日本。そう聞かされて、すぐさま机の引き出しや工具箱をまさぐり、「この黄色いヤツがメイド・イン・ジャパン?」と首を傾げた人がいるかもしれない。そのカッターナイフを世に送り出しているオルファ株式会社の代表取締役が、公私共々Jeepのハンドルを握る岡田真一氏だ。
もう一つ驚いてもらおう。“オルファ”という社名の由来が想像できるだろうか。カッターナイフの最大の特徴と言えば、折る刃→オルハ→オルファ。オルハのローマ字綴りのOLHAには、国によって発音しない文字が含まれるらしく、海外進出を計画していた創業者は“OLFA=オルファ”とした。読み方の音やロゴのデザインから、ヨーロッパあたりのブランドと疑わないまま利用してきた人は決して少なくないだろう。
カッターナイフの開発秘話に触れておく。岡田氏の実父で創業者の良男氏は、紙を切る機会が多い印刷会社に勤めていた当時、切れ味が鈍くなると捨てていたカミソリの刃がもったいなく、扱いの危険性にも疑問を感じていた。また街中で見かけた路上の靴職人は、靴底を削るのにガラス片を利用し、これまた断片が丸くなれば再びガラスを割ってナイフ代わりにしていたという。
そこで良男氏は、終戦直後の米兵たちが口にしていた板チョコをヒントに、刃を折るたびに新しい刃先が使えるナイフを思いつき、1956年に自ら試作品を製作。それがオルファ大阪本社のショールームに飾られているが、現在のカッターナイフとほぼ変わらず、良男氏が求めていた理想形の高さに驚かされる。その後、商品化を大手メーカーなどに依頼するも、折れる刃物は非常識とされ受け付けられず、町工場に3,000本を注文するが、刃が入らなかったり、刃が外れるなど売れるような仕上がりではなかった。結局3か月かけて自身で手直しし、1959年に商品化に至った。
そうして現在に続く社名でオルファは1967年に設立。工具箱の中でも目につきやすいイエローを製品のカラーに定めたのも同年だった。現代表は創業者の仕事を振り返ってこう話した。
「もし親父がカッターナイフをつくっていなかったら、困る人はきっと多かったでしょうし、もし似た製品が登場しても、ここまで使いやすいものになっていたかどうか……」
オルファには聞いてみたいことがあった。誰にとっても使いやすいデザインを創造できる理由だ。何しろ多数のグッドデザイン賞受賞製品を生み出してきたのだから、優れたプロダクトデザインチームを抱えているに違いないはず。
「ウチは伝統的に、絵を描いてからものをつくるではなく、ものをつくりながら形を決めていきます。どうすれば力を入れやすいか、握りやすいかを検討しながら。道具とはそうやってつくるものですから、デザインは開発スタッフが行います」
またまた驚かされた。専任のデザイナーを必要とせずともここまでのデザイン力を発揮できるとは!?
「握る指の形に合わせて波を打たせた柄を持つナイフがあるでしょう。それもウチはやりません。使う人の手の大きさを決めてしまうからです。手の大小に関わらず使いやすいのが道具の使命です。そして使い勝手を突き詰めていけば、勝手にカッコよくなるものですよ」
新ブランド、OLFA WORKS誕生
2020年、揺るぎなきものづくり精神を貫くオルファに新ブランドが誕生した。カッターナイフのアウトドアラインであるOLFA WORKS(オルファワークス)だ。その背景には、自社製品を提供してきた従来の市場とは異なるアウトドアマーケットならではの可能性があったという。
「私どもの製品は主にホームセンターで扱われるだけに、常に低価格を求められてきました。しかし、安値に見合った素材を使うというのはウチの考え方に合わず、その点では今も苦労しています。ところが出張先でお話を聞いたお客様によると、ブームが起きているアウトドアの世界では、ユーザーが欲しいものであれば、要するに付加価値がある製品なら価格ありきでものをつくらなくていいと。この発想はおもしろいと思い、アウトドア用のカッターナイフという新たなブランドを立ち上げました」
OLFA WORKSがまず取り組んだのは、既存製品のアレンジだった。ただし替刃に関しては、『替刃式フィールドナイフ FK1』はブルーイング加工、『替刃式フィールドノコギリ FS1』は黒染めをした専用品を用意。なおかつ『替刃式ブッシュクラフトナイフ BK1』には、セレーションと呼ばれる切り欠きを設けたスペシャルな替刃を備えた。和歌山の業者が職人の誇りにかけて仕上げたものだという。
「それでもどう売れるかわからず、1年分つくって様子を見ることにしました。数は、初期の3製品で各6千。それが1週間で完売しました。いろんなメディアで取り上げられましたが、SNSの影響力の凄さを思い知らされましたね」
そして2021年の春、OLFA WORKSから最新モデルの『アウトドアナイフ サンガ』が発売された。ブレードが柄の後方まで貫通しているフルタングタイプで、替刃を持たないナイフという点ではオルファ自体にとっても意欲作になる。
「海外出張のたびに毎回20本も買ってくるほどのナイフ好きだった親父のコレクションの中で、私がいちばん好きなナイフを開発スタッフに渡しました。OLFA WORKSの最初の製品はおおむね好評でしたが、色を換えただけという声もあったんですね。であれば刃物メーカーのプライドの見せ所だと、これまでとは違う本気でかかってきたと思わせるナイフをつくりたかったんです」
取材はサンガ発売の4月28日より前だったが、すでに注文が殺到しているという。