プラチナカードより特別!? 三崎の会員制”サヴォリ”クラブ
サボリの達人が商店街にオープンする
自由で型破りな「城」を一足早く公開
「サボリは権利だと思うのです」。そう公言し、三浦半島を拠点にアウトドア案内人としてフォロワー増加中の寒川ハジメさん(2011年9月2日付「lifstyle」にも登場)が、会員制のクラブをオープンする。ハンモックで昼寝ができる日本初の施設「ミサキ シエスタ サヴォリ クラブ」、通称「昼寝城」である。
場所はマグロ漁港として知られる三崎港の三崎銀座商店街。海に囲まれ、自然豊かな城ヶ島も散歩圏内で、そばの港で釣りも楽しめる、格好のサボリ環境がそろったスポットだ。築90年の元船具店を改装した「昼寝城」は、木造建築の良さを極力残し、手作業で修復した。窓を開ければ心地よい潮風が通る部屋には、最高級の手編みハンモック、読書が楽しめる本棚、太陽光で動くレコードプレイヤー、月見もできる露天五右衛門風呂も完備。寒川さんは、ここを拠点に、昼寝→ふらりと外食→昼寝→釣り→風呂というふうに、周辺と共に楽しんでほしいという。表の商店街を見渡すと江戸の港町として栄えた歴史を残す看板や蔵があり、タイムスリップしたような風情が感じられる一方で、近年の高齢化や漁業人口の減少からシャッターが閉じた店も多く、人通りもまばら。しかし一歩踏み込んでいくと、老舗の味を守る美食店も発見でき、店の人々も皆温かい。
また最近は、この歴史ある商店街を愛し、参入を願う新たな商店も加わり、街おこしの気運もある。寒川さんが通うイタリアンカフェ&バールの「ミサキプレッソ(MP)」もそのひとつで、東京の音楽業界で働いていたご主人が2年前に出店、音楽家や現代美術作家も集う社交場と化している。常連客の間では、近隣の老舗魚店「まるいち」から鮮魚、中華の名店「牡丹」から点心をデリバリーし、この店のワインや食事と共に楽しむ商店街リミックスが行われることもある。寒川さんは「MPのご主人の誘いもあり、この店があるから安心して商店街に入れた」と言う、老舗とアウトサイダーをつなぐ存在だ。他にも蔵を改装した「うつわとくらしsol」など、新店舗が老舗商店に溶け込んでいるところに街の懐深さや新規参入者の美意識を感じる。そう、「昼寝城」には新旧世代が連携する安心の城下町がある。だからこそ、サボりに浸れるのだ。
この「昼寝城」周辺の魅力を寒川さんはこう語る。「映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の舞台、キューバの老練ミュージシャンが暮らす古い街を思わせるんです。三崎にも時代のトレンドに左右されない雰囲気が通じます。『ミサキ シエスタ サヴォリ クラブ』の語呂も、あの映画にヒントを得ました」。また、北原白秋など文化人に愛されてきたカルチャーが香る地場もシンクロし、寒川さんを引き寄せた。「キューバといえば、クラブのハンモックも中南米から南の快楽を追求するラテン文化から生まれたもので、サボリの象徴なんですよ」
さて、「時計と時間に縛られない」というこのクラブをいかに楽しむかはゲストの自由。型にはめるツアーもガイドもない。その代わりに三崎をより楽しめるようにレンタサイクルの用意や、寒川さん特製マップ、持ち運び薪ストーブなど物販も予定。さらに、「物よりも、体験や人との交流の場を提供したい」をモットーにゲストが旅先の写真を持参する上映会も待機している。
日々の生活の気分転換をしたい人がこの港町でハンモックに揺られると、非日常にシフトできる。そして、日常に戻るためにもサボリは必要だと確信するだろう。寒川さんをして「ここの会員になることは、プラチナカードを持つよりも特別です」と言い切る「昼寝城」には、労働や消費への強迫観念が漂う日本社会へのアンチテーゼが込められている。