古い洋館を改造したギャラリーで 土の香りのする “My 茶碗” を選ぶ
「ギャラリー うつわノート」で見る、器のその先にあるもの
蔵造りの街なみが残る、小江戸・川越。喜多院、日枝神社から住宅街を歩いて行くと、元気よく走り回る子どもたちの姿に出くわす。すると、ふっとそこだけ異次元に迷い込んでしまったかのような、古い洋館が現れる。ここが、ギャラリー うつわノートだ。
オーナーである松本武明さんは、ギャラリーをオープンする前から、普段使いの器の美しさをテーマに、さまざまな個展や作家、作品を書き綴った、ブログ “うつわノート” を5年以上続けている。会社時代に陶芸を習い始め、練習用サンプルにと作家ものの器を買い始めたところ、その様式美に惹かれて器の世界にのめり込むことに。最初は作家の作品や情報などの記録のためにファイリングしていたのだが、その数が莫大となり、ブログに転換したのだという。IT関係の仕事をしながら、まったくの趣味での執筆だったが、さまざまなギャラリーを訪れ、作家に会い、その人の人柄や生活を知るうちにもっと深く関わりたいと、2011年の4月にギャラリーをオープンさせた。
ここで取り上げられるのは、どれもすぐに食卓に並んでいても不思議ではない、ご飯茶碗、ぐい飲み、コップ……、という日常的なもの。奇をてらったようなものはひとつもなく、「ああ、器って土からできているんだなぁ」と気付かせてくれる、焼きものらしい器。色も華美なものはなく、素朴だったり、ちょっと無骨だったり……手にとるとズシリと重量感があって、その印象はさまざま。一般的な器のギャラリーよりも男性客が多いというのは、その一環した松本さんのセンスに関係しているようにも思う。
「陶芸というと、昔は陶芸作家は先生扱いされたりして、作品主義的なところが主流でしたが、最近はもっと日常に根付いた、道具としての美しさがある器が増えたように思います。ギャラリーでは、自己主張をしすぎない、作為のない、素朴な器を扱っていきたいですね。僕がそういった器が好きなもので」と松本さん。
作家の個展はもちろんのこと、企画展もオリジナリティのあるものが多く、たとえば10月に行われた「大谷工作室のうつわ展」は、”オフビート” をテーマに、粘土遊びがそのまま作品になったかのような陶像やオブジェと、味のある器をミックスして展示。まさにフリージャズの “オフビート” のようで、見ていて楽しくなる。
「企画展を通して、器にはいろんな価値観があるんだ、と見る人に感じていただければいいですね。洋服は、価格、用途、デザインなど細分化しているじゃないですか。器も作風や用途でどんどん使い分けされるとおもしろいと思います。飯碗ひとつとっても、土を焼いて作られた茶碗にもられたごはんはおいしそうに見えるものですしね」と松本さん。
ギャラリー うつわノートでは、若手作家の器も多く取り上げられている。それは、実際、他のギャラリーや地方のクラフトフェアなどで彼らに会って話をする機会が多いというのが一番の理由だそうだが、ブログでも常に若い才能を応援してきた松本さんだからこそのセレクションだろう。
実際に器を手に取って、自分がご飯を食べるシーンを想像してみて欲しい。お気に入りの車を選ぶように、毎日使うものだからこそ、自分だけのお茶碗を吟味して選んでみるのもまたオツなものだ。
ギャラリー うつわノート