どこまでも、手を動かして考える。アーティストユニット「magma」に聞く、創造の極意。
あたらえられた何かをただ消費するだけでなく、自ら新しいものを生み出したい。目に見えるモノに限らず、日々の過ごし方、生き方、考え方を、もっとより良く、楽しくできないか。Jeep®オーナーをはじめとして、人々の気持ちは「自らつくる」ほうへ向かっているように思います。コミュニティプロジェクト「CREATIVE GARAGE」では、ラジオやWEBサイトを通じて、これからの時代に向けた「創造のヒント」を発信しています。
今回ご登場いただくのは、アーティストユニット「magma」。2人の手にかかれば、日常で何気なく目にするもの、廃材として捨てられてしまうようなモノも、圧倒的な存在感を放つ「宝物」に生まれ変わります。
ゆず「終わらない歌」CD ジャケット ーmagma official webより
「ゆず」のシングル「終わらない歌」ではCDジャケットとミュージックビデオのアートワークを担当。ミュージックビデオでは、からくり時計に住む20体以上のロボットを制作。
「WOOD STOCK」KENPOKU ART 茨城県北芸術祭 2016 ーmagma official webより
茨城県北芸術祭では、旧美和中学校の「木の研修室」に木製の家具やスピーカーを基調としたインスタレーションを制作。
既存の家具や小物、さまざまな素材を組み合わせてつくるオリジナル家具も人気を博しています。
立体物だけでなく、ステッカーなどグラフィックデザインによるアートワークも多数。
今年結成10周年を迎え、ラフォーレ原宿で開催された大型展覧会ではこれまでの作品約100点を展示。
そんなmagmaの2人による最新作が、「架空のギフトショップ」。
「FUJIYAMAXショップ」と銘打ったこの企画は、20周年を迎える〈ジャーナル スタンダード〉とのコラボレーションによるもの。「ジャーナル スタンダード 表参道」 では店内の一角にリアルな「FUJIYAMAX ショップ」が出現している他、各店舗でmagmaが制作したアイテムを購入することができます。
これらを眺めていると、ただただ「すごい」「これ、どうなっているんだろう」などと感嘆するばかりなのですが、果たしてこれらのアイテムはどのようなプロセスを経て生み出されたのでしょうか。
後日、「magma」のお二人が制作活動を行うアトリエを訪れ、ギフトショップがどのように形作られたか。物作りのプロセスについて、話を伺いました。
最新作は、架空のギフトショップ
宮澤謙一さん
ーなぜ「架空のギフトショップ」をつくることになったのでしょうか?
宮澤:もともと〈ジャーナル スタンダード〉さんとは、クリスマスに向けて一緒に何かをやろう、という話をしていました。構想を練っていくうちに、「架空のショップが良いのでは」というご提案をいただき、今の形になりました。
杉山純さん
ー何をつくるか、販売するか等、ショップの内容はどのように決まっていったのですか?
杉山:これまでも制作してきた「ELT」というキーホルダーシリーズと、セットになるようなバッグをつくろう、ということがいちばん最初に決まりました。
ーキーホルダーはすべて1点ものなんですよね?
杉山:はい。すべて1点もので、異なるデザインになっています。これまでもキーホルダーは100種類以上つくってきたのですが、今回の「FUJIYAMAX」用には新しく420点ほどつくりましたね。
ー「FUJIYAMAX」オリジナルバッグは、どのようなプロセスでつくられたのでしょうか?
宮澤:これまではボディありきで、プリントのデザインだけをやることが多かったのですが、今回は形から考えさせてもらって。僕達からは色の指定くらいだったんですけど、素材選びや、口をしぼるための紐やハトメの位置など、〈ジャーナル スタンダード〉さんとセッションするような形で仕様が決まっていきました。僕達にはない、ファッション的な感性が加わって、おもしろいものができたと思います。
「隙がある」モノとの出会いが、新しい発想を生む。
ーここからお二人には、新しいものを生み出すための秘訣をお伺いできればと思います。いい作品が生まれるときの条件、みたいなものはありますか?
杉山:いちばん楽しいのは、何かひとつのモノを見て、全く新しい使い方や、他の何かとの絶妙な組み合わせを見つけた瞬間ですね。
ーひとつの対象物をみて、そこに新しい解釈や発想を加えていく作業。
杉山:ものと出会うことで、これまでの自分には全くなかった発想が生まれることが多々あります。
ー素材を集めていく段階で、「こういうものにグッとくる」といった共通項はありますか?
杉山:モノとして完成してるというよりも、どこか、作りがあまいものがいいんです。
あまいんだけど、どこかクセがあって放っておけない感じ。
ー人間で言うと、隙がある人のような
杉山:そうですね。あとは、一昔前のもので、豊かだったんだなーこの時代、と感じさせてくれるもの。現代では残っていなくて、その時代だからこそつくれていたものとか。やっぱりいいですよね。
宮澤:あとは、自分のできないところをやってくれているものも多く集めていると思います。例えば一見なんてことない椅子でも、脚の部分がやたらと複雑な溶接を駆使してつくられているものとか。
解体を構築を繰り返すことで、中身が見えるようになる
ー素材として使えそうなものは、どのようにして見抜くのでしょうか?
宮澤:解体していくうちにわかるんですよね、例えばテーブルであれば、天板の中身は無垢なのか、ダンボールみたいになってるのか、とか。だんだんパッと見るだけでわかるようになってきます。
ーすごいですね。透視能力のようなものが身についてくるんですね
宮澤:先日、TV番組で動物を解体するひとの話があって。その方曰く、人間の動きで一番おもしろいのって、階段をのぼってるときらしいんです。骨が透けてみえてくるというか、内部の構造がすごくよくわかるんですって。
ーmagmaのお二人の場合も、それに近しいものがあると
宮澤:そうですね。そこまで専門的ではないんですけど。
ーモノと対峙してるうちに、「僕を使って!」みたいに声がきこえてくるとかそういうわけではないですよね。
杉山:そういうファンタジーはないですね(笑)
手を動かす。考える。同時にやることで、飛躍が生まれる。
ーそれにしても、平面から立体物まで、幅広く、いろんなものをつくっていて、よくぞインスピレーションが枯渇しないなぁと思います。
杉山:設計と構築を、手を動かしながら同時にやっていくことがいちばんいいなと思うんです。設計図をはじめにバッチリ描いて、そのとおりにつくれば、図面以上のものはなかなか生まれません。同時に行うことで、両方の伸びしろが、いくらでも上がっていくというか。
ー家づくりでいうところの、設計士さんと大工さんの役割を同時にこなすようなイメージですね。
杉山:たとえばこの椅子だと、釘を隠したいとおもったときに、その方法も、普通に隠れるだけじゃなくて、よりよく見えるように工夫する。弱点をプラスに転換させるにはどうしたらいいか、ということを考えていくうちに、それが新しい手法になって、アイデアにつながることが多いかなとおもいますね。
宮澤:そういったことを手を動かしながらどんどん試していると、自分たちも創造してなかった部分へ飛躍することがあって。その瞬間がすごく楽しいです。
ーなるほど。magmaのものづくりのポイントが、少しわかったような気がします。ありがとうございました!
おまけのフォトギャラリー
Photo&Text_Kenta Baba