モツとフレンチ 常習性の高い新感覚の食のマリアージュ
ホルモン好きのシェフがオープンした異彩を放つアバ・ビストロ。
不景気なんてどこ吹く風、カジュアルなビストロが連日満席だという。行儀よく、コース料理をいただくのではなく、ボリュームたっぷりなフランスの家庭料理を、友人たちとワイワイ言いながらシェアしたり、軽くつまんでワインを中心に堪能したい人もウェルカム、という気楽さがウケているらしい。
新店が軒並みオープンしているなか、異彩を放っている一軒がある。中目黒の商店街の外れにある、「Tatsumi」がそれだ。
黒板メニューの3分の1を占めるのは「アバ(内臓)」料理。えっ、フレンチの内臓料理って、いわゆる「フロマージュ・ド・テッド(豚肉の頭の部位のゼリー寄せ)」とか、「ピエ・ド・コション(豚足煮込み)」はポピュラーだけど?
「そういうのもありますけど、それだけじゃないですね。焼き肉店で見かけるような、”シビレ”や”オッパイ””ギアラ”などの牛や豚のホルモンがあるじゃないですか。そういった新鮮な内臓の部位を、フランス料理の技法でアレンジしたらおもしろいかも、と思ったんです。僕自身がホルモン好きなもので」と、オーナーシェフの広瀬亮氏。
そんな冒険心とチャレンジ精神から生まれた内臓料理は、そのほとんどが試行錯誤の上に生まれたオリジナル。メニューを見ると、「アバジュレ」「アバ汁」「ピノキオ」「スーパーチャーハン」など、未知の料理がずらりと並ぶ。ちなみに「アバジュレ」はトリッパや豚耳、センマイなど数種類の部位をジュレで固めたテリーヌ、「ピノキオ」とは、豚のしっぽの煮込みのこと。しっぽを、長く伸びたピノキオの鼻に見立てて名付けられたとか。そういった、遊び心満載のネーミングも心憎い。
広瀬シェフは、宇都宮「オーベルジュ」や、中目黒「コム・ダビチュード」といった、正統派フレンチの名店で修行した後、パリ、ブルゴーニュ、アルザスと各地のレストランで働いた経験も持つ。奇をてらっているかのように見えながらも、どの料理も驚くほど完成度が高いのは、豊かなキャリアに裏打ちされた確かな腕があるからこそ。内臓料理のみならず、店内で熟成させている、短角牛や庄内牛などの赤身肉のローストや、新鮮な魚や野菜を使ったカルパチョやサラダ、フリットの数々も、素材の良さが引き出された逸品で、しみじみと味わい深い。
ワインはすべて、フランス、イタリアの自然派ワイン。「自分がうまいと思ったものを揃えています」と言う広瀬シェフのセレクションから、グラスワインも白赤、各5種類は用意されているので、料理に合わせていろいろ試してみても。
少人数だったら、ぜひカウンター席を予約して。広瀬シェフの気まぐれで、メニューにはないスペシャルな一皿が飛び出すこともあるとか。仕事帰りに立寄り、特等席のカウンターで味覚の冒険に陶酔する、男性客が多いというのもうなずける。毎週通いたくなるサプライズと吸引力がこの店にはある。