フレンチシェフが手がける 驚きのタンドリーチキンとは?
前代未聞、火入れの温度は300℃ !
岡崎の閑静な地に今までになかった鶏料理専門店が登場
皮目こんがり、熱々で出てくる堂々たるタンドリーチキン。つけあわせの野菜は皿からあふれそうに8種類ほど! パンが添えられて、これで完結したワンプレートだ。鶏肉は表面パリッパリで実に香ばしく、しかしナイフを入れると驚くべきしっとり加減。そのしっとりさたるやただのしっとりではなく、本当にものすごくしっとり、そしてふんわりとして、肉質のきめのこまやかさをひしひし感じさせるような加減。「何これ?」と思わず言ってしまう、前代未聞というか、前代未食の食感なのだ。
2011年の春にオープンした「セクションドール」は、昼も夜も、メニューはたったこのひと皿だけ。実に、鶏肉だけで勝負という店なのである。
ちなみにこの鶏肉、名称はタンドリーチキンだけれど、正確にはインド料理のタンドールで焼いたものではないので、タンドリー風=マサラ風味のチキン。独自の食感は、低温調理をして仕上げにフライパンで焼き目をつけたといったものとは根本的に違って、「300℃でとことん火入れをした」もの。昔、沸点は100℃と習ったことがあるが、300℃って? 何でもアイロンメーカーに発注した特殊なオーブンということで、飽和蒸気と過熱蒸気で乾燥と湿潤状態を繰り返し、その中で鶏肉は限りなくしっとり、そして表面はパリパリに仕上がっていくのだと。そういえばたしかにここの熱源はこの300℃の特殊オーブンがあるばかりで、ガス火も電気こんろもない……。しかし、その蒸気のことやら、なんで300℃なのかも結局わからないんですけれど?
「いや、実は僕もよくわかっていないんです。」とシェフの永松秀高さん。「すごいオーブンがパン屋をやっている友達の店に来て、これは調理に使えるなぁと僕用にカスタマイズしたのを作ってもらって、実験に実験を重ねてこのひと皿ができあがったもので」。
そもそも永松さんは正統なフランス料理の道で修業を積んできた人だ。鶏肉ひと皿の店を作った理由は「フレンチを普通にやっても埋もれてしまうと思った。何かスペシャリテ、他のどこにもない自分だけの一品を作れたらと思って考え抜きました」。煮込み料理とか、誰もが好きなカレーの、とびきり旨いものを出そうとか思わないこともなかったが、「はっきり言って目立ちたかった」。誰もしない料理、後を引いてまた食べたくなる料理。鶏肉なら宗教に関わりなく誰もが食べてくれるし、京都には元々「かしわ」が好まれる土壌もあった。
お店は岡崎の閑静な一画、疎水前の建物の1階にある。わずか8席のスペースだが天井が高くて広々した印象、さらにテーブルやカウンターは店名「セクションドール(黄金比率)」にちなんですべてゴールドに輝いている。しかも流れる音楽はイタリアンオペラのアリアなどで、何とも劇的な雰囲気を醸している。料理もしつらいも雰囲気も店主のあり方も独自。
鶏料理1本で来たけれど、これからは豚肉も扱っていくし、ジビエなんかもやってみたい。クリスマスにはテイクアウトのチキンを予定しているということで、そのパッケージを目下デザイン中なのだとか。また黄金色で黄金比率なのだろうか?
それを楽しみに……いやそれより先に、きっと矢も盾もたまらず、また食べに行ってしまうだろうなぁと思うほど、やみつきにおいしい店である。