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2020.12.24

壮絶な職人人生を歩んできたパティシエが出会った、嘘のつけない仲間たち

クリスマスにお届けするJeepオーナーインタビュー。スイーツの権威ある国際コンテストで数々の功績を残してきたオーナーシェフ・和泉 光一氏が開いた代々木上原にあるパティスリー『アステリスク』。父親から受け継いだ職人気質と、走り続けた先でJeepを通じて出会ったかけがえのない仲間たちへの思いをたずねた。

坂の途中にある小さな星

記号なら「*」。フランス語では“小さな星”を意味する『アステリスク』は、千代田線代々木上原駅から徒歩約2分の、井の頭通りに面したパティスリー。謙虚な屋号を掲げているが、2012年のオープン以来今もって行列ができる人気店だ。

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「自分の店を出すと決めたとき、お世話になった方からこう言われました。売れる立地を選ぶな。自分が骨を埋める覚悟を持てる場所にしろと。それで以前から暮らしたかった上原にしました。坂があること。そして東京のど真ん中にも関わらず人々のつながりがあること。実家の田舎の雰囲気によく似ていたんです」

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漆黒の『ジープ ラングラー アンリミテッド サハラ(Jeep Wrangler Unlimited Sahara)』を従えた『アステリスク』のオーナーシェフ、和泉 光一氏は、懐かしいものに向けるような眼差しで自分の店を眺めた。

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この店の人気を支えるのは、一も二もなくスイーツの完成度の高さだ。ショーウィンドウに並べられたケーキの数々を今風に言えば、「上がる・萌える・映える」がふさわしいのかもしれないが、そんな刹那の表現を越えた普遍的美術性がそれらには宿っている。そうした感覚がファンタジーではないことを裏付けるのが、洋菓子職人の国際コンテストで優れた成績を収めた和泉シェフの技術だ。それにしてもこの人の経歴には、洋菓子づくりに賭けた凄みが満ちている。

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コンクールで試そうとした自分らしさ

1970年愛媛生まれ。実家は祖父の代から続く和菓子屋。長男の和泉氏は、生まれながらにして三代目を約束されていた。ところが。
「稼業が嫌いでした。生粋の職人だった父親は無口で怖くて、家族で遊んだ記憶など一つもない家庭だったんです。おやつはいつもアンコ玉。ただ、田舎の和菓子屋はクリスマス時期の1週間だけクリスマスケーキをつくるんです。そのとき口にできる真っ白なクリームが夢のように感じられました。それと、子どもの頃からセサミストリートが好きで、不思議と海外志向が強く、いつか外国の文化に触れたい気持ちがあった。それが洋菓子の世界に進んだ理由です」
とは言え大事な跡取りが下した、同じ菓子ながら洋という皮肉な選択を咎められなかったのだろうか?

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「今後一切、跡を継ごうなどと考えるな。親子の縁を切る。父が言った言葉を真に受けて、18歳で東京の製菓学校に入りました」
卒業と同時に洋菓子店へ。実際の現場で仕事が楽しいと感じられたのは、職人の世界を子どもの頃から見てきた以上に、その空気が好きと気付いたからだという。
20代後半で関西の人気店に入り、やがてスーシェフに。約60人の従業員を束ねる立場に翻弄される日々を送る中で、ふとコンクールへの興味が芽生えた。

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「それまでにもお手伝いでコンクールに関わることはありましたが、僕の時代は上の人が強く、しかもホテルの料理人が参加するものと思い込んでいたので、自分に縁はないと思っていました。そんなある日、コンクールの飴細工で優勝した人が同い年と知り、衝撃を受けたんです。今の自分は自分らしさを何も表現していないと……」
これが人生二度目の退路を断った瞬間だった。その決断は同時に、世話になった師匠への裏切りでもあったという。
「関西に戻れないようにしてやると言われました。実家の四国も関西に入るんだったら、いよいよ故郷に帰れないんだと思いましたね」

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29歳で再び東京の老舗に転職。そこで5年を目途に結果を出すべく自分の菓子づくりに励もうと決心するも、店の売り上げを伸ばしてこそと考えたのは、父親の商いに対する考えが染みついていたと振り返った。
そうして無名の職人は、あえて国際大会の予選を兼ねた国内コンクールに挑戦。然るべき権利を勝ち取り、毎回フランス・パリで開かれる2005年のワールドショコラマスターズ日本代表に選出され、総合3位の活躍に大貢献した。翌2006年はアメリカ開催のWPTC(ワールド・ペストリー・チャンピオン・シップ)の日本代表キャプテンとなり準優勝。洋菓子業界でその名を知らぬ者はいない存在となった。

行間に潜む父親への思い。そして新たな出会い

だが、経歴や結果の羅列には背景が記載されないのが常だ。その行間にこそ本当の戦いが潜んでいる。
「細工で見せる部門は手先の器用な日本人でも勝てる。けれど味覚で勝負する部門は、フランス人の舌を知らないとダメなんです。そこで和食の出汁を断ちました。味噌汁やラーメンを一切口にせず、食べるならフランス料理だけ。それを2年半続けて、ようやくチョコのフレーバーがわかってきました。さらに、徹夜でコンクールのための作業を行い朝から店の仕事をやって6年。あの頃は狂っていましたね。けれど日本代表メンバーは皆同じでした」

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問われなければ語る機会などないはずの過去を、和泉氏はあくまで淡々と話した。しかし、なぜそこまで自分を壮絶に追い込めたのだろうか?
「反骨精神? それもありますが、コンクールを目指した時点で自分が世界のどの位置にいるか知りたかったことと、結果を出さないとお世話になった方々にお礼ができないと思いました。一番は、この仕事が好きってことじゃないですか。父親も、多少具合が悪かろうと店を休みませんでしたからね」
今年50歳。節目と呼べる年齢を迎え、前だけ見て必死で走ってきた自分を振り返ることができるようになったという。そのきっかけを与えてくれたのも父親だった。

「72歳で逝きました。今から4年前です。僕の店にはとうとう来ませんでした。半人前の店には行きたくないと言って。亡くなる4日前に会ったときもお叱りを受けてね。職人は裏方仕事。表に出てチャラチャラするなと。それは僕がテレビや雑誌で紹介されるようになったのを知ったからですが、母親によれば、父親はそれらを喜んで見ていたそうです。やっと認めてもらえたような、最期を迎えてやっと親子になれたような気持ちになりました。職人としてはカッコ良すぎですよね。そんな終わり方じゃ抜きようがない。まさに死に逃げですよ(笑)」

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息子として、男として、父親に学ぶことはあまりに多く、親が亡くなった後もまた無言の教えを諭され続けていくのだろう。
ここで和泉氏とJeepのエピソードを。2016年の秋に札幌を訪ねたとき、現地の友人が乗ってきたラングラーに一目惚れ。東京に戻り即座にラングラーを購入したという。新型の発表を聞きつけ、2019年9月には新型のラングラー アンリミテッド サハラへ。先代はスポーティな印象のカスタマイズを行ったが、今回は樹脂パーツ部分もブラックに改めた、東京の夜に似合う仕様とした。和泉氏がいつかこの時期を思い出すとき、新しいJeepを手に入れたことも人生の分岐点の一つに数え上げるかもしれない。

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「自分が何をしたいかに向き合ってみて、やはり一生菓子屋でいたいと思いました。父親とは違う、自分なりの死に様を探すためにも。そんなことを考えられるようになったのは、この歳でようやく持てた余裕なのかもしれませんね。それと時を同じくして、あのメンバーと出会いました。人見知りの僕が一気に溶け込むなんて、自分でも信じられなかったです」

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