小野塚彩那さんの自宅・民宿「勝田屋」へ訪問取材!飛躍を支える愛車『Grand Cherokee』と銅メダルの先へ
冬季オリンピック銅メダリスト小野塚彩那さんの自宅へ突撃訪問取材。スキー界で大注目のオリンピアンの素顔に迫る。
スキーはスキーでもBCは別物。上手に滑れるようになりたい!
「いらっしゃいませー」
新潟県南魚沼市にある石打丸山スキー場の目の前に建つ民宿「勝田屋(カツダヤ)」に常連客が到着した。愛想よく挨拶をして、お客を宿へ招き入れる。そこに厳しい戦いをくぐり抜けてきたオリンピアンの面影はない。ましてや“五輪メダリスト”というおごりもない。一見すると人懐っこい、やや弾けた今風の若女将という風体である。
フリースタイルスキーハーフパイプの日本トップ選手、小野塚彩那さんは高校生のときから同市内にある親元を離れ、スキー場に近い祖父母が営むここ「勝田屋」で暮らしている。
祖母の女将さんがコーヒーを淹れ、柿を剥いているその横ですっかり“トップアスリート”から“孫”の顔に戻っていた。彩那さんにとってここは28歳の孫になれる数少ない場所なのだろう。
とはいえ一年をとおして日本にいるのは6カ月ほど。世界基準のハーフパイプの練習環境が整う海外でトレーニングし、シーズン中は世界を股にかけた転戦が続く。
「昨日、イタリアのシュナルスタールから帰ってきたばかりなんです。1週間後から、またアメリカのコロラドでトレーニングを始めます」
外国滞在中の食事は、節約と健康面を考慮してすべて自炊。パワーの源となっているのはもちろん魚沼産のコシヒカリだ。「コロラドは標高が高いから、おいしく炊くのが難しいんですよね〜」
彩那さんは1988年新潟県南魚沼郡塩沢町に生まれた。父はスキージャンプの元国体選手で、母は元アルペンスキーヤーというバリバリのスキー一家。あたり前のように小学2年生のころには板を履き、アルペンスキーを始めていた。そして、小学3年生のとき新潟県大会で優勝。めきめきと頭角を現し、地元石打、いや新潟の星として名だたるアルペンスキー大会や < 全日本スキー技術選手権大会> で実績を残してきた。
転機が訪れたのは2011年、23歳のとき。スキーハーフパイプが <オリンピック> の正式種目に決まったと同時に、フリースタイルスキーへと転向した。その理由を聞くと、潔い回答が返ってきた。
「オリンピックでメダルを獲りたかったんです」
その宣言どおり2014年<ソチオリンピック>で銅メダルを獲得。大柄な外国人選手のなかで、身長158㎝の小柄な体がだれよりも高く空に舞った映像は記憶に新しい。その後、ワールドカップシリーズや、海外ではオリンピックと同じくらい価値ある大会といわれる<Xgames>で表彰台の常連となり、フリースタイルスキーヤーとして世界から一目置かれる存在となった。
遠征を前に宿のチューンナップ室で板にワックスをかけ始めた。
「スキーの道具は命を預けるものなので、信頼できるものでないといけません。雪山でいえば、山岳ガイドのようなもの。心から信頼できるガイドでないと、だれもいっしょに山へは行きたくないですよね」
ワックスがけを待つスキーのなかに、ひときわ太いスキーが目についた。バックカントリー用のファットスキーだ。
「ソチオリンピックが終わった2014年の3月に、スキーヤーの児玉毅さんとカメラマンの菅沼浩さんに十勝岳に連れていってもらいました。ずっとやりたかったバックカントリースキーです。はじめての雪山でいきなりクランポンとアイスアックスを使う本格登攀(笑)。滑るイメージをもって登らなきゃいけないのに、もうついていくだけで必死でした。大自然が相手だから、競技とは違った緊張感があったりして、非日常的な時間で心身ともにリセットされる感じで気持ちよかったです。でも、滑りはぜんぜんうまくいきませんでしたね。ターンしたいときにターンできない。パウダーは一番難しいですよ。難しいからおもしろいんですけどね」
スキーでできないことはひとつもないと思っていた。しかし、バックカントリーでは新しいことばかり。シール登行やキックターン、クランポンやアックスの使い方、新雪での体重移動、雪山でのウエアリングなど。すべてが初体験で、はじめてスキーを履いた幼少期に戻ったような新鮮さがあった。そしてフリースタイルスキーヤーとして思いもよらぬ感想を口にした。
「滑りよりも、シールをつけて登る方が楽しかったです。小学校の授業でやったクロカンは大嫌いだったのに。太いスキーで斜面を登れるなんてこれまで考えもしませんでした。ただ、同じ斜面を登り返すのは嫌い。トレースがついて登りやすいけど、風景が変わらないし。広い山に登って、自由にどこでも滑ってよしっていうのが新鮮でした」
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