アメリカンBBQとJeepグラディエーターを同時に体験する『Jeep Real Grill』開催。生粋のアメリカンにたずねたピックアップトラックの楽しみ方を報告!
2022年6月3日、東京・豊洲のアウトドアスペース『WILDMAGIC』で、100組を越えるメディアを集めた『Jeep Real Grill』が開催された。ついに日本上陸を果たしたJeepグラディエーターと、本格的なアメリカンBBQを同時に体験するこのイベントで特に興味を抱いたのは、この国ではまだ馴染みが薄いピックアップトラックの楽しみ方だった。主催者である生粋のアメリカンに、彼の地のピックアップトラックカルチャーをたずねた。
まずはタフさに舌を巻いたオーセンティック・アメリカンBBQ
臨海地区とは言え、23区内でこれほどぽっかりと空が開けた場所は珍しい。そんな『WILDMAGIC』でBBQが振る舞われると聞けば、1日中煙が絶えないものだと思っていた。
ところが一向に煙は立たず。すべての肉料理は、長時間かけて調理する専用器具によってほぼ完成していたらしいが、その器具を上手に使いこなし、なおかつ肉の旨みを引き出す技を工夫するのが、アメリカンBBQのオーセンティックなスタイルなのだという。
聞けば調理は前日から行われ、豚の肩肉を使ったプルドポークは9時間かけて仕上げたそうだ。しかもこのイベントでは、『ジープ グラディエーター(Jeep Gladiator)』の試乗機会を求めて100組超のメディアが集い、その全員にアメリカンBBQの神髄を披露するという。そのタフさ自体がまさにアメリカン。ビーフ、ポーク、チキンがそろったワンプレートに舌鼓を打つ前に、ここに至った労力を思って舌を巻いた、というのがアメリカンBBQ初体験の実感だった。
ピックアップトラックはアメリカ人の自由の象徴?
メディアを3組に分けて行った『Jeep Real Grill』。まずはStellantisジャパン代表取締役兼CEOのポンタス・ヘグストロム氏の挨拶から。
「グラディエーターはクールの極みです。それに気づいた日本のファンから、わずか3ヵ月で400台もの受注をいただきました。ピックアップトラックの国内導入を決めたのは、『ジープ ラングラー(Jeep Wrangler)』同様、一つのセグメントをこの国でつくりたかったからです」
ラングラー アンリミテッドをベースに荷台を追加したグラディエーターが発表されたのは、2018年のロサンゼルスモーターショーだった。このニュース、ピックアップトラックの本場のアメリカ人にとっては衝撃的だったようだ。何よりJeepは1947年以来ピックアップトラックをリリースし続けてきた、あるファンによってはピックアップトラック・ブランドでもあったからだ。しかも一度途絶えた荷台付きの系譜が、グラディエーターの登場によって26年振りに復活。その反響は大きく、発売翌年の『2020北米トラック・オブ・ザ・イヤー』を獲得。さらに2021年のピックアップトラック全米シェアで、Jeepはいきなり3位に躍り出た。
以上のトピックスは、日本のJeepファンとしても喜ばしい。しかし商用車のイメージが抜けきらず、なおかつ全長5,600㎜という長大なグラディエーターをどう乗ればいいのか? これはピックアップトラックに不慣れな日本人に共通した心配ではないだろうか。
続いて登壇したのは、Stellantis 上級副社長 インドアジア太平洋地域 セールスマーケティングオペレーションのビリー・ヘイズ氏。親子3世代でJeepを愛し、BBQは趣味の域を越えているというアメリカンだ。この日のために前日から仕込みを行ったのも彼だった。
ヘイズ氏は5月末に新潟で開催された『Jeep Adventure Academy 2022 Basic Class』にも参加したが、一堂に介した大勢のメディアの前に立つのはこれが初めて。それゆえ名刺代わりとしてBBQを企画したのかもしれない。その規模や手間は名刺を差し出す気軽さをはるかに超えていたが、ヘイズ氏の意気込みには立場を越えた、ライフスタイルを共有したい強い思いがあったように感じられた。
「なぜアメリカ人はピックアップトラックが好きなのか? それは、自由の象徴だからです」
これはヘイズ氏がプレゼンテーションで語った言葉だ。その意味を知りたくてインタビューを申し込んだ。生粋のアメリカ人で日本に住まいを持つという彼なら、この国でピックアップトラックを楽しむヒントを授けてくれるに違いないと思ったから。
テールゲートパーティーを日本でも!
──アメリカ国内のグラディエーター人気に驚いています。その理由は何だと考えますか?
「まずアメリカでは、車輪がついている商品でもっともクールなのがピックアップトラックと思っているユーザーが多いこと。その上でJeepのオフロード性能を備えているなら、グラディエーターが支持を集めるのは当然と言っていいかもしれません」
──その人気は、郊外でも都市部でも変わりませんか?
「日本の方にすれば、あの大きさのクルマは都会で乗れないと思うかもしれませんが、アメリカでは都市部でもピックアップトラックを好む人は多いです。ホイールやタイヤ、それにベッド(荷台)のカスタムパーツが豊富に出回っているので、自分なりの1台をつくりたい人にはうってつけなのです」
──日本人にとって不慣れなのが、そのベッドの使い道です。
「そのあたりは歴史の違いがあると思います。1800年代初頭のアメリカは皆農業従事者でした。そして誰もが広い農場を求めて働いた。1930年代になると農業従事者は35%になりますが、依然として過酷な労働をする人々の支えになるよう誕生したのがピックアップトラックです。ヘッドライトが備わると、夜間の作業にも貢献したそうです。これがルーツ。時代は移り、さらに農業従事者が減っても、人々はマルチパーパスビークルを持つ価値を忘れませんでした。造園業や電気業者は仕事で活用し、一般の人は自宅のDIY資材を積むのに重宝した。趣味にも生かせました。モータサイクルや自転車を載せて出かける若者もいれば、キャンピングトレーラーを引く家族もいる。いわばアメリカ人は、ピックアップトラックに対して仕事でも趣味でも使える認識を歴史的に有しているのです」
──それがプレゼンテーションで語られた“自由の象徴”なのですね?
「そこには、他の誰かに手を差し伸べる自由も含まれます。だからピックアップトラックを持つ友人がいるのはうれしい。日本のJeepコミュニティでも、今後はグラディエーターが必要になっていくでしょう」
──歴史的な違いは納得できるお話です。そしてまた我々でも、何にでも使えそうなカッコよさをピックアップトラックから感じ取ることはできます。では、どうやってベッドを有効活用したらいいでしょうか?
「それは我々が限定するものではありません。ベッドのユーティリティ性は、それこそオーナーが自由に生かせばいいと思います。何より日本のファンは、Jeepがどこにでも行けるクルマである事実をご存知ですから、より自由になれる乗り物としてピックアップトラックを楽しんでほしいですね」
──より自由になれるというのは心に刺さります。
「アメリカのピックアップトラックカルチャーの一つを紹介しましょう。テールゲートパーティーです。アメリカ人はアメリカンフットボールが大好きなのですが、試合の日はゲームが始まる前から終わった後まで駐車場で盛り上がるんですね。その主役は、家族とピックアップトラック。ベッドに積んできた道具や食料で開くパーティーを心から楽しんでいます」
──テールゲートパーティー、日本では新鮮ですね。
「サッカーでも野球でもいい。私はそれをここでもやりたいと思っています。テールゲートパーティーから日本独自のピックアップトラックカルチャーが始まる、その先頭に立つのがJeepであれば、これほど素晴らしいことはありませんね」
自由×自由がピックアップトラックの存在価値。そしてピックアップトラックならではの集まりと楽しみ方。それをヘイズ氏から聞いていたら、サイズ感や荷台の使い方ばかりに気を取られている場合ではないと思った。見方を変えれば我々は、グラディエーターによって自由の生かし方を試されているのかもしれない。何はさておきテールゲートパーティー。ぜひ一度体験してみたい。
■今回のイベントの様子を動画でもご覧いただけます。
Text:田村 十七男
Photos:安井 宏充(Weekend.)