アベンジャーに留まらないBEVの次期ラインナップ
アベンジャーが紹介されたディーラー・カンファレンスと同じタイミングで、プレス・ミーティングも開催された。Jeepブランドマネージャーの新海 宏樹氏と、Jeepプロダクトマネージャーの渡邊 由紀氏によるアベンジャーの概要と、Jeepの電動化計画の進捗報告が行われた。
▲Jeepブランドマネージャーの新海宏樹氏。
▲Jeepプロダクトマネージャーの渡邊由紀氏。
Jeep史上初のBEVにスモールSUVを充てた背景には、コンパクトクラスのレネゲードがイタリアを中心に欧州で人気を集めていること。そのレネゲードが有する30%の女性オーナー比率を、アベンジャーによってさらに高める目的があるという。しかし、実際のアベンジャーはいわゆる女性仕様ではないので、より親しみやすい新型の投入によって、特に欧州でのJeep認知度向上を図る意図があるのだろう。
ちなみに、小さすぎるからか、北米での発売予定はないそうだ。新たなラインナップも選べるようになる点で、日本市場はなかなかおいしいと言っていい。
アベンジャーに冠されたコピーは、“DUAL SOUL CAPABILITY”。直訳すると「二元的な魂の能力」となるが、オンでもオフでも走れるJeepの伝統的な性能を指すなら、まさしく二元的だ。4xe Day発表時に流されたビデオでは多数の子どもが登場しているそうで、それに鑑みればBEVが暗喩する現在と未来もまた二元的を示唆しているのかもしれない。
「2030年までにアメリカの新車販売の50%を、そしてヨーロッパで販売する100%の製品をBEVに」
2022年9月のプレスリリースで発表されたJeepの電動化計画は、すでにご承知のことと思う。この計画を進める過程で、国内ではこの春に『ジープ グランドチェロキー フォーバイイー(Jeep Grand Cherokee 4xe)』が発売され、導入は来春以降ながら宮崎でBEVのアベンジャーがお披露目された。Jeepとしては公表した計画通りに粛々と、または誠実に電動化を推進しているわけだが、ファン側は毎年のようにニューモデルが発表されることに驚きを隠せない。にもかかわらずプレス・ミーティングで渡邊氏は、さらなるBEVの登場を予告した。
2024年のアベンジャーに続き、2025年にはフルオープンドライブが楽しめるラングラーの弟分であるリーコンを。翌2026年には、グランドチェロキーの横にそびえる頂のワゴニアからワゴニアSを、それぞれ国内導入する予定だという。この加速度的な進化を遂げようしているのが、現在のJeepだ。
JeepのEVは、人生を楽しめる価値を伴う新しいクルマ
プレス・ミーティングでは、2022年11月にStellantisジャパンの代表取締役社長となった打越 晋氏に話を聞く機会を得た。新社長は、大学院卒業後にエンジニアとなって以来、30年以上に渡って自動車関連産業に従事。Stellantisインドアジアパシフィックリージョンのアメリカンブランド・ダイレクターを経て現職に就任した。まずは自身が抱くJeepのイメージをたずねた。
▲Stellantisジャパン代表取締役社長の打越 晋氏。
「実を言いますと、Stellantisに合流するまでJeepに乗ったことがなかったのです。ですから初めて運転したときはびっくりしました。それまで私が知っていたクルマとは何もかも違いましたから。さらに驚いたのは、誘われて参加した『Jeep Adventure Academy 2022 Basic Class』です。オフロードドライビングは子どもに還ったような気持ちになりました。一緒に乗って走った妻は、その場でJeepが大好きになったほどです。オーナーの方もみんな笑顔なんですよね。そのJeep愛がブランドを支えているという発見も新しく、他のブランドにはないところだと痛感しました」
今ではすっかりJeepが大好きになったという新社長には、Jeepファンに向けてこんなメッセージがあるという。
「お約束するのは、これまでJeepが培ってきた、ファンの皆様が期待するコアバリューは絶対に壊しません。なおかつ、いたずらに販売台数を追い求めるような方法も採りません。何よりJeepのお客様一人ひとりがインフルエンサーであることを理解しています。Jeepの楽しみを発信していくブランド戦略は、BEVが登場していくこれからも継続します」
その新しいBEV、あるいは既発のPHEVは、どのように楽しんでもらいたいだろうか?
「それは私たちが提案したり、あるいは押し付けたりするものではありません。言うまでもなくEVは、環境問題を始めとする様々な社会課題の解決策として今後も発展していきますが、生きていく上で窮屈なものであってはならないと思います。それがJeepであれば、人生を楽しめる価値を伴っていなければなりません。ですからJeepのEVは、街中でも自然のそばでも、気づいたらEVだったと。そういう新しいクルマになっていきます」
この「気づいたらEVだった」という発言は、Jeepの電動化計画でもっとも重要なポイントなのかもしれない。まずはJeepであること、人生を楽しくしてくれる存在であること。計画では触れられていないJeepならではのFUNの魂は、過去と未来をつなぐアベンジャーにも二元的に、または多元的に継承されている。それが既視感となったことで、このニューモデルもJeepに見えたのだろうか。
ヨーロッパでは発売前にカー・オブ・ザ・イヤーを受賞したアベンジャーには、近年のJeepが確信犯的に忍ばせている隠れキャラが随所に配置されていた。そのすべてを多くのJeepファンが見つけ出せる日が待ち遠しい。
▲フロント下部に小さい7スロットロゴがあったりと、車体のさまざまなところにJeepの遊び心がみられる。
Text:田村 十七男
Photos:大石 隼土