Interview

2021.12.21

【Jeep Real Games】僕はパルクールの実践者 〜パルクール・ZEN氏〜

独自のカルチャーとパフォーマンスで人々を魅了する5種目で、世界屈指のバトルを披露するスポーツコンペティション『Jeep Real Games』。各競技のメンターを紹介する第5回は、パルクールのZEN氏が登場。

Jeepが実施するRealスポーツコンペティション『Jeep Real Games』。独自のカルチャーとパフォーマンスで人々を魅了する5種目(パルクール、BMX、ダブルダッチ、スラックライン、フリースタイルフットボール)で、世界屈指のバトルを繰り広げる。本大会における各競技のメンターを紹介する第5回は、パルクールの世界的第一人者、ZEN氏が登場。アクロバティックな動作を創造するフィロソフィーを語ってもらった。

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▲メンター・ZEN氏

パルクールは哲学的

100年以上前にフランス海軍将校が編み出した軍隊トレーニングを祖に持つとされているパルクール。そんな歴史よりも、最近になり街中や公園の構造物を身ひとつで跳び回る姿をCMなどで目にするようになったことから、パルクールに関しては“まったく新しいストリートスポーツの登場”という認知のほうが浸透しているのではないだろうか。

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2018年6月に東京都江戸川区で誕生したパルクール専門のトレーニングスペース『MISSION PARKOUR PARK TOKYO』も拡散し始めたイメージを生かすように、アスファルト舗装のグラフィックなどを用いてストリートの雰囲気を醸し出している。そしてこの場所は、長年暮らしたロサンゼルスから戻ったZEN氏の重要な練習拠点でもある。

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▲パルクール専門のトレーニングスペース『MISSION PARKOUR PARK TOKYO』

勝手知ったる場所だからか、ZEN氏は到着した出で立ちのまま股関節周りのストレッチを短時間で済ませた後、すぐさま施設内を動き回った。

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躊躇なく高所から体を回転させながら飛び降りるアクロバティックな動きは、いわば構造物を利用した器械体操だ。それにしても目の当たりにした運動の難易度は尋常ではない。にもかかわらず、ZEN氏はこともなげに、素人目にはいきなり全開で動作を繰り返していく。
それらが達人だからこそなせる技であることに疑いの余地はない。ただひとつ、これだけの複雑な動きを肉体に強いるには準備運動が少な過ぎるのが納得できなかった。もっと丹念にやらなければ怪我につながるのではないだろうか。

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「今は公式に当てはめるようなルーティンを設けていません。大事にしているのは、アップをしながらその日の状態を確認して、すべてをゼロに整えることです。体調は毎日変わるから、体の中でもプラスの箇所とマイナスの箇所が常に同じとは限らない。それなのにいつもと同じルーティンにはめると、どこを本当に緩めるべきかつかめなくなるんです」

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すべてをゼロ。そう言われて顔に疑問符が浮かんだのかもしれない。そこに向けて彼は、小さな笑みを浮かべながらこんな言葉を続けた。

「パルクールは哲学的ですからね」

競技参加は完全に普及活動

まずはZEN氏の“主な戦績”を紹介する。18歳の2011年に日本で初開催された世界大会『RedBull Art of Motion Yokohama』に出場。予選を1位通過し、日本人選手として唯一進んだ決勝で5位。翌年の19 歳に日本初のプロ・パルクール・アスリート契約を締結。2019年にカナダ・バンクーバーで開催された『North American Parkour Championships』で優勝。アジア人初の全米チャンピオンになる。

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その偉業により、同年度のNewsweek『世界が尊敬する日本人100』の一人に選出された。直近では、2020年のオンライン世界大会『E-FISE・FIG PARKOUR VIRTUAL COMPETITION FREESTYLE PRO MEN』で優勝。
以上の結果で断言できるのは、ZEN氏が類稀なパルクール・アスリートであることだ。しかし、競技について意外な発言をした。

「すべて完全に普及活動です。アジア人では無理と言われる競技世界でベストパフォーマンスを出せば注目される。その先で僕が求めたのは、パルクールを語る場を与えてもらうことでした」

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15歳のとき、クラスのゲーム仲間からパルクールの凄技動画を見せてもらったのが物語の始まり。当時のZEN氏は、運動を楽しみたいと思っていながら各スポーツが既定としていた勝利至上主義になじめず、言葉で説明できない葛藤を抱えながら日々を過ごす他にない“帰宅部”だったという。

「あまりに衝撃的な動画でした。ゲームのキャラみたいな動きを体ひとつでリアルに体現できるのが凄すぎて。人間の可能性を感じたんです。同時に、僕も人間だから正しく機能させれば同じようなことができるかもしれないと……」

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両親の協力を得て、高校最初の夏休みに渡米。動画にみたロサンゼルスのチームのもとを訪ねた。現在のZEN氏に鑑みれば、初めて会う西海岸のプロたちを最初から驚かせたかと思いきや、むしろまったく逆だったそうだ。
「あんな動きをしたいという僕に向かって、そもそも体の使い方がぐちゃぐちゃだし、メンタルコントロールもできていないと言われました。その時点から、知らぬ間に身に着けた自己流の動きを土台から直したんです。将来の限界値を高めるために。勢いだけでロサンゼルスまで押し掛けた僕に、現地のメンバーは親切に向き合ってくれました。彼らの温かさもパルクールのカルチャーだと現地で知って、さらに感動したんです」

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心と体の乖離を整えるトレーニング

では、ZEN氏が語りたいパルクールとは何なのか? それについては一晩中でも語れる自信があるというだけあって、言葉はせきを切ったように溢れた。

「パルクールというのは、挑む環境が毎回変わる中で常に予想とフィードバックの修正に迫られます。つまり心と体の乖離を整えていくトレーニングがパルクールに求められる。あるいはパルクール自体をトレーニングと言い換えてもいいと思います」

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その日のアップの段階ですべてをゼロに整えるというのは、ここで言う心と体の乖離につながっている話なのかもしれない。確かに、哲学的だ。

「個々のトレーニングだから正解はない。上手も下手もない。アプローチしようとする精神と、それを実現させる肉体へのプロセスがいちばん大事なんです。突き詰めていくと危険に見える場所でもパフォーマンスしますが、僕らはそこへ一足飛びには行きません。そもそも無謀なチャレンジで負う怪我、自己破壊はパルクールの定義にはありませんから」

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となるとパルクールは、ヨガのような修行と捉えるべきなのだろうか?
「はい。ヨガに近いと思います。あくまで持論ですが、パルクールが秘めているのは壁の向こうに何があるか知りたくなる人間の欲望だと思うんですね。子どもの頃は皆そうじゃなかったですか? 親にダメと言われても、どうしても登ってみたくなるという。それで怪我をしたら危ないのは確かですが、壁を越えたい意欲を尊重しながら失敗を学ばせてあげるのも大人の役目じゃないでしょうか。最近は特に、コントラストが強い社会の中で欲望や本能を押し殺して塞いでいる10代が多い気がしています。そんな子たちが考え方を整理する方法の1つとして、何らかの形でパルクールが役立つのではと考えています。自分を振り返れば、この道に出会えていなかったらと思うと怖くて仕方ないですから」

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それが普及活動の真意なのだと28歳の青年が語る。パルクールに出会ってから約13年の時間の濃さを知る思いがした。

スポーツに当てはめるのはもったいない

週の内少なくとも3日はトレーニングに費やすというZEN氏にプライベートタイムの過ごし方をたずねたら、「ひとりカフェ」という答えが返ってきた。そこで、彼が最近気になっているという『POSH』へ。
『MISSION PARKOUR PARK TOKYO』からクルマで約15分の清澄白河エリア。ZEN氏の知人が2021年11月にオープンさせたという『POSH』は、ヴィーガンやベジタリアンにも対応したロースイーツ(焼かない菓子)の専門店だ。

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▲2021年11月にオープンしたロースイーツ専門店『POSH』

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「健康的な食事が好きではありますが、ジャンクフードを絶ってるわけではないです。食事に関しては神経質になり過ぎず、“おいしい”と“楽しい”も大事にしていますね」」

ひとりカフェの時は、どのように過ごしているのだろう?
「パソコンを持ち込んで、パルクールのクリエイティブにつながる素材集めをします。それが唯一の趣味かな」

ここは突っ込みどころだろう。パルクールから頭が離れないなんて真面目か?
「真面目? いや、オタクですね。入れ込まないと納得できる作品はできませんから。でも、特別なスイーツ作りに打ち込んでいる『POSH』のオーナーさんも同類なんですよね。異なるジャンルのオタク話を聞くのも大好きです」

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パルクールの参加者も多かった2回目の『Jeep Real Games 2021』。すでにパルクールと出会った人、これから出会う人に向けてZEN氏からメッセージをもらった。
「先にも言いましたが、そもそもパルクールに正解はありません。障害物を通して自分の心と体のバランスを整えていくのがパルクールという活動です。たとえば日々の筋トレやランニングのように、誰にとってもライフワークになるといいですね。それぞれ競技指向に向かえばボディビルやマラソンがあるように、パルクールにも世界大会があります。けれどそれはあくまで一部です。大事なのは自分のパルクールを追求すること。僕にしても、競技だけならやがてパフォーマンスの低下に直面しなければなりません。それでパルクールを止めるかと言えば、そうじゃない。なぜならライフワークだから。競技スポーツの定義に当てはめるのはあまりにもったいないんです」

最後の質問を。あなたはアスリート? パフォーマー? アーティスト?

「僕はパルクールの実践者です」

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【Information】

パルクールパーク|MISSION PARKOUR PARK TOKYO
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住所:東京都江戸川区松江2-27-15
定休日:毎週火曜日
URL:https://missionparkourpark.com/

POSH
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住所:東京都江東区常盤1丁目3番7号 ラフィーヴィル清澄白河EAST 1
営業時間:10:00 – 19:00(火~土・祝日)
定休日:月曜日(祝日の場合は営業)
URL:https://posh2021.com/

Text:田村 十七男
Photos:濱上 英翔

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