Fashion

2012.07.18

バスク料理とヴァンナチュール 福岡で素敵な巡り逢い

世界的なデザイナーが地元・福岡で開いたのは
新しい価値観を持つワイン×バスク料理サロン

  • main159 バスク料理とヴァンナチュール 福岡で素敵な巡り逢い
    霧島豚の蒸し煮塩麹風味(¥2,200)。豚が健康的で、味付けももたれずに食べられる。
  • main244 バスク料理とヴァンナチュール 福岡で素敵な巡り逢い
    持田農園トマトとブッラータチーズのサラダ(¥1,400)。糸島半島の農園から届いたトマトを、福岡ではまだ馴染みの薄いブッラータチーズと。
  • main340 バスク料理とヴァンナチュール 福岡で素敵な巡り逢い
    左からオススメのヴァンナチュールを。パスカル・シモニュッティ「ボワール・チュ2009」(¥5,300)、オリヴィエ・クザン「ル・クザン グロロ 2010」 (¥5,600)、マルク・ペノ「シャポー ムロン 2010」 (¥5,800)、ジェラール・シュレール「ゲヴェルツトラミネール キュベパルティキュール 2008」 (¥5,600)。
  • main423 バスク料理とヴァンナチュール 福岡で素敵な巡り逢い
    店内のアートワークは東京のセレクトショップgrocerystore のショップマネージャーをしながら画家としても活動中のEiji(E-WAX)さんやDJのTOWA TEIさんが描いたもの。
  • main515 バスク料理とヴァンナチュール 福岡で素敵な巡り逢い
    小松音響の真空管アンプ。「これからは大音量の箱で踊るというよりこのような”場”で愛をアートを音楽を語り合う、そんなのがきてる気がしている」という信國さん。

sub1_thumb44 バスク料理とヴァンナチュール 福岡で素敵な巡り逢い

ジョン・ガリアーノや菊池武夫など著名デザイナーにも認められた世界的デザイナー信國太志さん。独特の感性がfukamidoriの空気感を生む。

sub2_thumb41 バスク料理とヴァンナチュール 福岡で素敵な巡り逢い

鮮魚のポワレサラダ仕立て(¥1,600)。毎日違う魚がメニューに、主に玄海灘で獲れる魚を使用。たっぷりの野菜も非常にフレッシュだ。

sub3_thumb37 バスク料理とヴァンナチュール 福岡で素敵な巡り逢い

スタイリスト、デザイナーとして知られる熊谷隆志氏によるグリーンが目印。

岡・大名といえば全国的にその名を知られたファッション街。その中心部にまたトレ
ンドの先端をいく店が2012年4月にオープンした。と言っても、セレクトショップなどで
はなく、レストランバーだ。「fukamidori」という一度聞いたら忘れない、少し変わった
名を持つヴァンナチュールサロンである。“ヴァンナチュール”というのは、ただオーガニ
ック栽培したブドウを使っただけのワインとは異なり、天然酵母を用い、酸化防止剤を極
力使わないなど醸造工程にいたるまで自然な造りとしたもので、現在のワインシーンにお
ける最先端のスタイルとして注目されている。

目抜き道路のひとつである国体道路から大名エリアに入ってすぐ。大きな熱帯植物が出
迎えるビルの二階にその店はある。パリのビストロのようなアンティークな木の扉を開け
ると真っ赤な壁が。さらにぶ厚いカーテンをかいくぐるようにして店内に入ると、グリ
ーンの壁一面に様々な絵画やポートレートが飾られる。飲食店というより、まさにアート
なサロンといった印象だ。

このスタイリッシュな店をディレクションしたのは、信國太志さん。Real Style with
Jeepのcraftsmanshipでも以前にご紹介させていだいている通り(バックナンバーはこちら
から
)、ファッションの世界ではその名を知られたデザイナーである。そしてその彼がこ
の地元・福岡で18歳のときに設立に参加したセレクトショップの社長で、長年の友人か
ら依頼を受けて監修したのがこの「fukamidori」。それだけに、店舗空間は銀座にある彼
のアトリエ「THE CRAFTIVISM」と共通するアーティスティックな世界観にあふれてい
る。わざと狭く作り、店全体がひとつの部屋としてひざを突き合わせて会話が出来るよう
な、地元に作った「自分の部屋」に遊びに来てもらう感覚で仕上げたという。

料理は「バスク×九州料理」の店を標榜する。担当する高崎雄介シェフは、福岡市内の
ホテルやレストランで勤務ののち、福岡・今泉にあった「ラ・バスケーズ」というバスク
料理の店でシェフを務めていた人物。この「fukamidori」で供されるのは「バスク×九州
料理」を名乗るだけにオーセンティックなバスク料理ではない。しかし、バスク地方が海
と山の新鮮で豊富な産物を生かした料理であるのと同様に、九州もまた山海の良質な素材
の宝庫。主に福岡近郊の素材をバスク料理の技法を用いて調理される。それは、何気ない
トマトとチーズという組み合わせでも変わりなく、福岡近郊にある糸島半島で採れた素材
を、その旨みを最大限に生かすべくシンプルに仕上げる。

シンプルなのと何もしていないのとは雲泥の差がある。実際、これまで福岡のフレン
チ、イタリアンは素材が良すぎて調理レベルでの進歩があまり見られなかったという印象
がある。しかし、高崎シェフの、その繊細な味付けは、ヴァンナチュールの自然な味わい
と非常に美しくマリアージュする。化学的な味に慣らされた現代人にとっては懐かしい、
あるいは初めて経験するような、土や海の香りのするとても自然な味わいだ。他にも玄界
灘で獲れる新鮮で味の濃い魚介、空気が澄んでいて餌にも恵まれた環境で育てられた豚肉
や鶏肉など、食べるだけで健康になりそうな食材がバスクのエッセンスを用いて仕上げら
れる。信國さんは言う。「店舗内装が得意で、ワインが好きだし、正直言うと、洋服以上
に飲食のほうがはっきりとやっていける自信のようなものを思っている部分があります。
洋服は価値観が曖昧だけど、食べ物は美味しいものは必ず美味しいと評価してもらえます
から」と高崎シェフによる料理と自らがフランスの生産者の元にも足を運びセレクトした
ヴァンナチュールには、絶対的な自信を持っている。

また、当初は「店舗監修」という立場だった信國さんだが、7月からは経営者として、
店のすべてを見る立場となった。もともとワインは好きだったが、ヴァンナチュールを飲
み始めたのはここ数年のこと。以前からヴァンナチュールにはまっていた奥様が二日酔い
知らずなのを見て、ヴァンナチュールに興味を抱き、その味わいにも惚れ込んだのだと
いう。この福岡の街にも「若い人たちだけに来てもらおうと思っているわけではないけれ
ど、ワインに対する変な先入観を持たず、旧来のオーソドックスな価値観のワインではな
い、新しい価値観を持つワインを知ってもらいたいと思っています」と期待する。

デザイナーによるレストランというとどこか軽薄な印象を持ってしまいがちだが、この
「fukamidori」には確固とした芯がある。バスク料理と九州料理の出逢い。そして、新し
い時代のワイン、ヴァンナチュールとの巡り逢い。福岡という街に新しい食とワインの文
化を発信しようとする強い意志を感じる店である。

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