閑静な住宅街に突如現れた、 夢のようなシャルキュトリー(肉加工品)専門店
滋味深い、鹿やキジ、イノシシなどの
自家製パテやテリーヌ、サラミがズラリ
閑静な住宅地である、目黒区青葉台。目黒川が近くに流れるこのエリアは桜の名所としても知られる。住宅街のなかに、センスのいい個人経営の小さな飲食店や古着屋、庶民的な工務店などが点在し、散歩するのも気持ちのいい場所だ。
そんな青葉台に、シャルキュトリー(肉加工品)と熟成ジビエ肉の専門店「フレンチデリカテッセン カミヤ」がオープンした。希少なジビエ肉を使った料理や、自家製生ハムに定評がある、中目黒のフレンチレストラン「ラ・ブシェリー・デュ・ブッパ」のデリと聞いて、すぐに駆けつけたくなったジビエ好きもいるはず。
ショーウインドウには、本格的なフランス料理の技巧をこらした、長野県産の仔ウサギを使ったゼリー寄せや青首鴨のテリーヌ、本州鹿のブーダンノワール、噛めば噛むほどうまみが増すイノシシや鹿のサラミなど数十種類のシャルキュトリーがずらりと並ぶ。
「お子さんができてレストランに来られなくなってしまった常連さんたちが、利用できるお店があればなぁと。子供たちも楽しめるジビエのハムやソーセージも作ってみたいと思ったんです。日本ではシャルキュトリーの専門店があまりないので、もっと親しんで欲しいという気持ちもありました。レストランをはじめて7年、日本全国のハンターたちとのネットワークもでき、やるなら今かなと」と神谷英生シェフ。
神谷シェフが、現在のように状態のよいジビエを定期的に手に入れるようになるまでは、実は長い道のりがあった。ジビエはしとめ方や締め方、下処理が肝心。たとえば従来の鴨はしとめた後、クビを切って放置しておくのだが、その方法だと血液が抜け出してしまい、パサパサした肉質になってしまう。フランスのシャラン鴨のように窒息させ、一日吊るしておくことで、毛細血管にまで血液がまわって香りがよくなるのだそうだ。しかし、ベテランのハンターは、当然、長年培ってきた伝統的な狩りの仕方や下処理の方法に自信を持っていて、青二才の料理人の意見など、そうやすやすとは聞いてくれない。神谷シェフは何度もハンターのもとに通い、実際に下処理の方法を見せ、解体し、その肉を料理して食べてもらって納得してもらうという。
「強面のベテランハンターも、彼が穫った鹿で作ったハムやソーセージを持っていって食べてもらうと、表情が変わりますね。何も言わずに”おっ、うまいじゃねえか”って風に、にやって笑って…。その瞬間、よかったなぁって」
そんな、神谷シェフ入魂のジビエ肉からつくられるハムやソーセージはすべて自家製。肉そのものの素材を活かすため、岩塩と厳選されたアルザスのスパイスをオリジナルでブレンドし、食品添加物はほぼ無添加だ。口に入れたとたん、その圧倒的な凝縮感に驚かされる。野山をかけめぐっていた鹿やキジ、イノシシだからこそのうまみと躍動感。ブロイラーで育てられた肉のハムやソーセージとはまったくの別物だ。
神谷シェフのこだわりは、独自で開発したヒマラヤ岩塩の熟成庫にも現れている。ヒマラヤ岩塩がマイナスイオンを発し、ジビエ肉のうまみと風味を極限まで高めるというもの。この熟成庫で熟成させた鹿のカルパッチョの味わい深いことといったら! うっすら岩塩のニュアンスもありながら、うまみが強く、余韻がいつまでも口のなかに残るのだ。
「ジビエは熟成させるほどうまいんですが、鹿は特に熟成に向いているんです。これを炭火焼のローストにしたら、天にものぼるうまさですよ」と神谷シェフ。
「ステーキやしゃぶしゃぶ、すき焼き、バーベキューなど料理に合わせてスライスしてくれるサービスもうれしいが、前もって連絡を入れておくとローストもお願いできる。手みやげにもホームパーティにも喜ばれること請け合いだ。
夢のようなデリの誕生で、自宅で熟成ジビエを味わえる幸福を存分に楽しみたい。
FRENCH DELICATESSEN KAMIYA