讃岐をルーツに、二つ星リストランテで磨いた 至極のパスタに舌鼓
たゆまぬ進化でファンを魅了し続ける
帰ってきたイタリアンの名店
あのクッチーナ イタリアーナ ガッルーラが名古屋に帰ってきた!─―うれしいニュースが飛び込んだのは、約2年前のこと。メディアにはほとんど登場せず、クチコミだけで「名古屋一予約が取りづらい店」と称されるまでになったイタリアンの名店だ。惜しまれつつも、2008年に前店舗をクローズ。沖縄に渡って、一流のホテルレストランで更なる経験を積み、飛躍を遂げて、再び名古屋へ拠点を構えた。そして、相変わらず「名古屋一予約が取れない」店として、多くの食通の舌を唸らせている。
その人気を支えるメニューの一つが、シェフ森岡賢一氏の生み出すパスタ料理だ。イタリアンの世界に入ったきっかけを「麺が好きだから」と笑うシェフは、うどんで有名な香川県・讃岐の出身。イタリア・ウンブリア州での修業中には、二つ星のリストランテ「ヴィッサーニ」オーナーシェフにして、イタリア大統領の専属料理人、ヴィッサーニ氏から直々にパスタシェフを任されたほどの腕前と言えば、そのレベルの高さがおわかりいただけるだろうか? 例えば、ウンブリア州の伝統パスタ“ウンブリケッリ”。卵を使わず、小麦粉と塩、オリーブオイルだけで作る麺は、まさにイタリアの讃岐うどん。モチッ、シコッの食感が絶妙だ。また、イカ墨のパスタ“シャラテッリ”は、これが単なるイカ墨ではない。まずは飴色に炒めた玉ネギにピューレ状のしいたけ、魚のブロード、イカ墨を加え、じっくり煮込んだものをパスタ生地に練り込む。こうすることでイカ墨の臭みがなくなり、味に深みが出るとともに発色もよくなるのだという。パスタ生地を仕込む代わりに、もう一品別の料理ができてしまいそうな手間のかけようだが、この丁寧な仕事こそが森岡シェフの真骨頂だ。
もちろん魅力はパスタだけにとどまらない。開業当初からの名物メニューで、とろけるようなフォアグラと甘酸っぱいマンゴーを合わせた前菜や、師崎港、豊浜港、三河一色港など地元のさまざまな漁港から届く魚料理、また炭火焼きでじっくりと調理する肉料理も自慢だ。炭火といえば強火で豪快に焼き上げるイメージが強いが、森岡シェフは肉の表面を軽く炙って、いったん火からおろして時間をおく。肉汁が落ち着いた頃を見計らって、また表面を炙る。絶妙な火入れ作業を根気よく繰り返すことで、肉汁を中に閉じ込めたまま、余すことなくうま味を引き出すことができる。
また驚かされるのは、一つひとつの素材に対するシェフの想いの強さ。忙しい合間をぬって、日本各地の生産者の元を訪ね歩いたり、魚の目利きに至っては、再オープン前に魚市場で働きながら勉強する徹底ぶりだ。
「イタリア修業時代にまかないで食べたマンマの味が忘れられない。すごくシンプルなのに、最高においしい。それは食材なのかな、と。ここ名古屋は立地にも恵まれていて、外海・内海の新鮮な魚が豊富に揃う。それを料理に生かすためにも、もっと魚について勉強したかった。プロの料理人が通う市場だったため、和食や寿司店の方から、おいしい魚の見分け方や、仕込み方なんかも教えてもらいました。イタリアンとは違うジャンルの料理人の話はすごく勉強になったし、いい刺激にもなりました」と森岡シェフ。加えて、やんばる島豚やドラゴンフルーツなど、沖縄滞在中に出合った食材も積極的に取り入れ、その探究心とレパートリーは尽きることがない。
2か月前の予約日に即埋まってしまう相変わらずの人気ぶり。しかし、シェフ自身は、「まだまだ」だという。「料理に終わりはないし、料理人である以上、お客の期待に応え続ける存在でありたい」と進化への情熱は止まらない。単に「おいしかった」だけでなく、「次はどんな料理が出てくるのだろう?」と、食べるほどにワクワクさせてくれる楽しい期待感。これが多くの人を惹きつけるガッルーラの魅力だろう。