Food

2012.02.27

おいしいもの好きが注目する 幻のサンドイッチ屋

パティシエ出身のシェフが作るのは
自家製具材にこだわった、毎日食べたいサンドイッチ

  • main141 おいしいもの好きが注目する 幻のサンドイッチ屋ケースに並ぶ8種類のサンドイッチ。ポップには丁寧に具材の説明が書かれていて、どれにしようか悩ましい。
    この日はお昼前に人気のハムチーズは売り切れ。
  • main226 おいしいもの好きが注目する 幻のサンドイッチ屋店名の『シャポー・ド・パイユ』は”麦わら帽子”の意味。
    かつてシェフが歩いて日本縦断したときに雨からも太陽からも守ってくれた麦わら帽子に由来する。
  • main322 おいしいもの好きが注目する 幻のサンドイッチ屋バゲットを焼くのは深夜。焼き上がったパンを冷まして、明け方にサンドイッチを作る。
    7時のオープン時には、作り立てのサンドイッチを買って出勤するサラリーマンも多い。

sub1_thumb26 おいしいもの好きが注目する 幻のサンドイッチ屋

ホイロやオーブンがところ狭しと並ぶキッチンは売り場とオープンにつながっている。「人が好き」と言う神岡シェフがお客さんと言葉を交わすのにうってつけな作り。

sub2_thumb24 おいしいもの好きが注目する 幻のサンドイッチ屋

サンドイッチのほかに、バゲット、クロワッサンやフレンチトースト、ドイツの焼き菓子クグロフなども並ぶ。どれも素朴でやさしい、毎日食べたい味ばかり。

sub3_thumb20 おいしいもの好きが注目する 幻のサンドイッチ屋

山手通りの一本裏、住宅街の一角にさりげなくたたずむ。テイクアウト専門のこじんまりとした店内には、入れ替わり立ち替わりお客さんがやって来て、お気に入りのサンドイッチを買って行く。

「明日はサンドイッチ日和やな」

東京・中目黒のサンドイッチリー(=サンドイッチ店)『シャポー・ド・パイユ』の神岡修シェフは、天気予報を見てそう分かる日があると言う。

暑くもなく寒くもなく、空はすっきりと晴れ。そんな空模様が予報された夜は、バゲットをいつもより多めに焼いて、サンドイッチを作り始める。焼きたてのバケットをナイフで横に切り開くと、もっちりした生地は、おいしいバゲットの印であるたくさんの気泡の穴でいっぱい。その面に発酵バターを塗ったら、レタス、マヨネーズ、ハム、エメンタールチーズを重ねてこしょうでアクセント。香ばしいバゲットを”がぶり”とかじると、ジューシーでやわらかい無添加の自家製ハムに、ひまわり油と赤ワインビネガーで作った自家製マヨネーズが軽くまろやか。シンプルゆえに、パンと具材のおいしさが存分に味わえるハムとチーズのサンドイッチは、シェフも一番のお気に入りだ。

「目黒警察のあたりにおいしいサンドイッチ屋さんができたらしい」

そんな噂が中目黒のパン好きや食いしん坊の間で、そしておいしいものと新しいものに目がない女性編集者の間で流れたのは2011年の秋。しかもその噂は「でも、場所がよくわからない」と続いていたのだが、その幻の店がここ、シャポー・ド・パイユだったというわけだ。

確かに立地は中目黒駅からも祐天寺駅からも目黒駅からも”近くない”うえに、住宅街の中、少々通りから引っ込んだ店構え。開店時間は朝の7時から午後2時まで。しかし、早朝には犬の散歩をしている人や通勤途中のサラリーマン、お昼には近所に暮らす人や働く人、おまわりさんまでが次々とやってきてはサンドイッチを買って行く。

店内のショーケースには、自家製ハムとチーズ、サーモンとクリームチーズ、自家製ベーコンのBLTといった定番から、ブロッコリーとチキンや金柑ママレードとチーズのタルティーヌのような季節モノまで、ずらり8種のバゲットサンド。しかも、価格は1つ350円~400円とかなりお手頃。

サンドイッチって特別な食事じゃなく日常の食べ物だし、毎日食べてほしいから、種類もたくさんに、値段も低めにしてるんです」と、神岡シェフ。もともとパティシエとしてキャリアを重ねてきた彼がサンドイッチ屋をオープンしたのは、パリの修業時代の味の記憶からだ。

「当時よくバゲットのサンドイッチを食べてたんですね。パリではみんな日常的に食べてるんですけど、僕もブーランジェリーで買ったり、自分で好きな具を挟んだりして毎日食べてました。あのパリのバゲットのサンドイッチが食べたいなあ、と思って始めた店なんです(笑)」

バゲットはレストランで働いていた時に独学で習得した。小麦粉は風味のよいフランス産と日本でよく使われているものをブレンド。天気と相談しながら水分を調整する。ベーコンやハムは、やはりレストラン時代にシャルキュティエ(=肉加工職人)から技術を学んだ。ハムは3週間塩水に漬け込んでから香辛料や香味野菜と煮込む。ベーコンは桜のチップでスモークしてから自家製のブイヨンでじっくり煮込んで仕上げる。

「パンとハムが手作りだと僕の本気度が伝わるかなと思って」と、人懐っこい笑顔に関西弁で話すシェフは、その言葉どおりサンドイッチに本気なのだ。そしてその本気は店の佇まいのようにさりげなく、でも食べればしっかりとそのサンドイッチに感じられる。

最近はご近所さんだけでなく、土曜日にはクルマで買いに来る人がいたり、仕事中のタクシーの運転手や宅配のドライバーも立ち寄って買っていったりするそう。そんなふうに都市生活者の定番フードになりつつある神岡シェフのサンドイッチ、ぜひ一度、お試しあれ。