My Jeep®,My Life. ボクとJeep®の暮らしかた。写真家・若木信吾
被写体とのリンクの強さ。それが表れる写真が好き。
若木さんがスタイルを変えようと思わない理由。それは、人に影響されることも重要だけど、それ以上に、自分にしか撮れない写真を撮ることも大事だからだと話す。それが長いキャリアのなかで若木さんが培ってきたことなのだ。
「もう人と同じことはできないですね。自分でやったものの方が価値がある、そう思うようになったんです。自分がここにいることの証明というか、自分の写真を撮ることが大事だなって」
若木さんがいいと思う写真。それは一体どんなものなんだろう? そんな質問を投げかけると、「うーん、どうなんだろう…、難しい質問だなぁ…」と悩む姿を見せながら、じっくりと言葉を選んでその問いかけに答えてくれた。
「被写体とのリンクの強さ。それが表れる写真がぼくは好きです。それはつまり、その人が撮る理由があるということだから。技術的なことは関係なくて、この人だからこの写真が生まれた、ということがハッキリしていることが大事なんじゃないかと思うんです」
「あと、話の角度がちょっと違うかもしれないけど」という前置きを添えて、若木さんはこんなことも話してくれた。
「写真は人に見られることによって面白味が増すんです。雑誌に載ったり、ネットで見れたり、メディアを通して拡散される。とくにメッセージとかはないんだけど、ひとつの写真が知らない人たちの手元に届いて、いろんな感情を巻き起こす。それがおもしろいんです。だからこそ、ぼくは写真を撮ることを仕事にしているんだと思う」
写真を通して伝えたいメッセージはない。でも、それを見た人が何かを思うきっかけになる。媒介としての写真の力を若木さんは“おもしろい”と話す。
「ぼくの気持ちとは関係なく、写真が一人歩きをして誰かの心を揺らす。それってなんか不思議ですよね。漫画にしても、アートにしても、ファッションにしても、何かの感情を巻き起こす力を持っている。それがクリエイティビティだと思うんです。写真を撮って、それを誰かが見て、楽しい気分になったり、心の中にあるストーリーと重ねてくれたらぼくはうれしいですね」
名もなき人の技術によって長年温められてきた美しさ。
今回、若木さんが〈ジープ®〉の「グランドチェロキー」に乗って訪れたのは、栃木県の南東部に位置する益子町。“益子焼”でも知られる陶器の町だ。
「益子に初めて訪れたのは10年くらい前のこと。日頃からお世話になっている写真家の高橋恭司さんに連れて来てもらって、すごくおもしろい町だな、とそのとき感じたんです。今日訪れた「益子参考館」、「pejite」、「starnet」のように、のどかな風景の中におしゃれな建物やお店があって、なんというか、他のどの町にもない景色がここにはある。それ以来、年に一度はなんだか訪れたくなるんですよね」
益子町を訪れて感じたこと。その想いを参考に、2010年、若木さんは自身の書店「BOOK AND PRINTS」を地元である静岡・浜松にオープンさせる。
「これは自分の基準になっちゃうんだけど、本屋やカフェなど、居心地のいい場所が当時の浜松にはなくて。場所は違うけど、山梨にも益子に似た素敵な雰囲気のギャラリーがあって、『同じことができるんだ!』って益子に来て思ったんです。いろんなタイミングが重なったのもあるんだけど、『俺にもできるかもしれないな』と思って浜松に本屋をオープンしました」
のどかな空気が漂いながらも、そこには独自のペースがしっかりと根付いている益子。ただ単にセンスのいいお店があるだけではなく、町の風土やそこで生活する人たちの生き方にも若木さんは魅力を感じているという。
「益子焼で知られるように、ここは民藝の町なんですよね。柳宗悦さんが民藝運動を押し広めてこの町もそうなったみたいなんですが、街全体がひとつの方向に向かっている感じがして、そのムードがぼくは好きなんです。民藝には、名のある作家主義というよりも、名もなき人の技術によって長年温められてきた美しさがあって、ぼくはそこに惹かれる。誰かが作った陶器に触れて、自分の心がふわっと温かくなる。その現象に、自分が写真を撮り続ける行為と似たものを感じたんです」