地球に”試される”場所。
世界中を旅する石川直樹さんにとっても特別なスポット。それは人間が存在しうる極限の地、エベレスト山頂だった。
「エベレストという山は、たまたま世界で一番高い山であるがゆえに、他の山よりもはるかに現実離れした多くの物語を有する」(「ちょっと世界のてっぺんまで」登山日誌2011年4月12日更新)。
石川直樹さんは、自身の2度目のエベレスト登山を記録したブログで、エベレストについてそう語っている。「たまたま」世界最高峰であるがゆえに、山のプロも素人も、その姿を実際に知っている人も知らない人も、エベレストという名前には特別な響きを感じ、心惹かれてしまう。世界中を歩き回り、様々な視点から地球を眺めている石川さんにとっても、エベレスト、さらに言えばその「てっぺん」こそが、世界で一番特別な場所だという。
エベレストの頂上はたたみ2畳分ほどのスペース。そこから見える景色は「成層圏の端っこが見えて、昼間だけど黒に近い青。どこまでも透明で、遠近感のない青が広がる世界なんです」という。8848mという世界で一番高い場所、それは世界で一番宇宙に近い場所でもあるのだ。
しかし、そこにたどり着いた者がその実感、喜びに浸っている余裕はない。この春、2度目の登頂に成功し、限界までフィルム、デジタル、ムービーで撮影を行った石川さんも、頂上に滞在した時間は20分程度だったという。
「長くいたくたって、いられる場所じゃないですから。8000m以上の山は、世界に14あるんです。でも、8000mと8848mじゃ全然違う。8000mというのはどんなに高所順応しても人間の身体が慣れることができない場所。それよりさらに高い場所がエベレストの頂上。そこは人間の限界、命の存在の限界なんです。だからすべての行為は生きることに直結します。食事も、呼吸も意識的に行わなくてはいけません。漫然と日々を過ごすことはできません」
エベレストは、人を魅了しながら、同時に、近づく者を拒絶するかのような試練をクライマーに課す。だからこそ、そこに人が挑戦したとき「現実離れした物語」が生まれるのだ。こうして生身の人間が挑戦できる限界の場所が世界の最高峰であることに、なにか人知の及ばない大きな意志の存在を感じずにはいられない。
「地球に試されている気がしますよね」
石川さんが初めてエベレスト登頂に成功したのは2001年のこと。そのとき頂上で彼は「こんなに面白い、希有な経験はない」と思ったという。
「あのとき僕は、チベット側からのルートで登りました。頂上に立った時、反対のネパール側から登ってくる人たちを見て、あのネパールからのルートで、この濃密な時間をもう一度経験してみたいと思ったんです。僕が旅に出るのは、見たことのないものを見たいから、新しいものと出会いたいから。一瞬一瞬すべてが新しい出会いの連続だったエベレスト登山にはもう一度チャンレンジしたかった。ただ同じルートでは登りたくなかったので、ネパールからいつか挑戦してみたいと思っていました」
その念願かなって2011年5月、10年ぶりに世界の”てっぺん”に立ち、帰ってきたばかりの彼に、またエベレストに行きたい? と聞いた。答えは即答だった。
「もちろん。早くまた戻りたいです。でも次はエベレストの隣にそびえるローツェかアマダブラムにまずは登って、8848mという場所を間近から眺めてみたいですね」
For Everest
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