美しい意匠、手厚いもてなし、そして華麗な料理 生まれ変わった「京都吉兆」の祇園店
80年の伝統と斬新さ。世界へ羽ばたく店とは? 料理とは?
「花吉兆」だったのが「HANA吉兆」に生まれ変わったのが2010年の春。京都・南座に隣接して内部でつながっていて、幕間の食事をする客で賑わった店が、南座から独立、大工事を経て新しい料理店に。客席は約半分になり、内装はフロアごと異なる雰囲気で意匠を凝らされている。壁ひとつとっても、景色盆栽家・小林健二さんによる格子の苔壁あり、左官作家・挟土秀平さんによる土壁あり、和紙作家・堀木エリ子さんによる和紙の壁ありという具合で、誰もが驚く斬新な改装だった。
京都を代表する名店のひとつとして知られる「京都吉兆」創業80周年を記念する大リニューアル。これは何より、「どうしたら必要とされる料理屋になれるか、お客さまに心から喜んでもらえる店になれるか」を考え抜いてのことだったと徳岡邦夫さん・「京都吉兆」代表取締役社長は言う。
「京都吉兆」は個室のみの料亭・嵐山本店をトップに、京都市内にはホテルグランヴィア京都の中と、そしてここ「HANA吉兆」がある(他に北海道・洞爺湖と名古屋、八幡市にも店舗あり)。「HANA吉兆」は嵐山本店のカジュアル版で値段設定も、気軽に訪れられるように本店の4分の1ほどに抑えられている。
夜でも11,550円から用意されているコースの、風情よく充実感のあること。たとえば盛夏~初秋のコースなら、女郎花や桔梗やりんどうなど花があしらわれた八寸が供されて、華やかさと季節感にまず目が喜ぶ。そして、彩りも美しく盛り込まれた取肴を日本酒といただけば、和食を楽しむうれしさがふつふつと湧き上がってくる。お椀のだしは澄んだ味で、鱧も大ぶり、つるりとした食感の糸瓜は涼感がある。竹籠入り、煙もうもう状態で登場する炭火焼の鮎の演出でまた盛り上がり、最後は熱々のご飯のおいしさがまた格別だ。何てお得感のあるコース!
セカンドラインといえども、「引き立てのだし、炊きたてのご飯、炭火焼きの焼き物は必須です」と徳岡さん。もてなしにおいても、嵐山店で目標とされている「涙が出るほどお客さまに喜んでいただくこと」を同様に目指しているのだという。「HANA吉兆」でも、料理が始まってからお祝いの席とわかって急いで赤飯を用意、コース半ばに運んで感激してもらったとか、お造りは食べられないという年配客に、機転を利かせて特別に薄造りにして出してみたら「ここのは食べられた」と喜ばれたとか、気配りありきのもてなしを実践しているそう。
さらに「HANA吉兆」でおもしろいのは、シャンパーニュブランドや日本酒酒造メーカーとのコラボレーションイベントが行われていること。「世界へ飛び立つものと共に仕事をする」という考えで、徳岡さんは飲み物に合うメニューを考案する。個性的な強い酒に合わせて出してきたのがフォアグラの西京焼なんていう強烈なものだったり、はたまたひじきやお揚げといった家庭的なものが洗練の味で出てきたりと、意表を突く自在さ。カウンターを備えた店であることから、いずれは板前割烹風に目の前で調理して出すという料亭らしからぬこともやってみたいというし、世の中で役に立つため、「HANA吉兆」だけでなく「京都吉兆」として食育であるとか人として教養を身につけるとか全体のレベルアップを図っていると熱く語った徳岡さん。今シンガポールでプロデュースしているという店「kunio tokuoka」の経験からさらに発展して、「京都吉兆」海外出店も検討中? 意気軒昂そのもの、今後もまだまだあっと驚くことをしてくれるにちがいない。
HANA吉兆
http://www.kitcho.com/kyoto/shoplist/hana/