Jeep × Women

2011.10.28

人との出会いでこそ、広がる世界

何よりも世界の広さを感じさせるのは、人との出会いかもしれない
97歳の笹本恒子さんの瑞々しい好奇心が、それを教えてくれる

  • main117 人との出会いでこそ、広がる世界一時はオーダー服のサロンを開業していたこともあり、おしゃれは大好き。赤いフレームのめがねもかわいく、いくつになって “ガール” という言葉がふさわしい。
  • main23 人との出会いでこそ、広がる世界2009年に支給された定額給付金では、新しい地球儀を買った。それを回しながら、思いをめぐらせるのが楽しい。奥は長年愛用していた古い地球儀。

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笹本さんが2001年に撮影した「ファーム富田」のラベンダー畑。可憐な花々は毎年7月に見ごろを迎え、富良野は多くの観光客でにぎわう。© Tsuneko Sasamoto

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「お嬢さんカメラマン」と呼ばれていた26歳の頃。父親や兄に猛反対されながらも、報道写真家として生きてゆくことを心に決めた時期でもある。

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2011年10月に発売された『好奇心ガール、いま97歳』は発売1週間を待たず重版が決定するほど大好評。11月4日(金)には北海道札幌市の共済ホールで出版記念特別講演会も開催予定。お問い合わせ先(事務局):090-2873-9300

本初の女性フォトジャーナリスト、笹本恒子さんの旅先には、いつも “人” がいる。例えば、20代の頃に憧れた街で活躍する日本人アーティストに会うためにパリへ。多数のフレスコ画を残した日本人宗教画家・長谷川路可の魂に触れるために、イタリアの小さな町、チヴィタヴェッキアへ。「まだ見ぬ人との出会い」という旅本来の楽しさが、そこには溢れている。

そんな彼女が実はここ10年ほど、北海道に足しげく通っている。きっかけは、北海道新聞の連載だ。

「会いたいと思う人は、夢を持っている人。自分の中の人間観が広がってゆくような気がして、好きなんです。この連載では、北海道にまつわる、まだ知られていない一般の方を中心に取材しました。有名無名にかかわらず、自分が苦心して見つけ出したものこそ宝でしょう。それを “こんなにいい仕事をしてるのよ!” って紹介したい」。

根っからの報道写真家なのである。

富良野で「ファーム富田」を営むラベンダー栽培の先駆者、富田忠雄さんも、そんな “宝” のひとり。農場主である彼がラベンダー畑の写真集を出すことを、ひょんなことから知った笹本さんは、早速連絡を取り北海道へ向ったという。

「ラベンダーに初めてであった時のことを、 “紫の妖精かと思った” だなんておっしゃって(笑)。本当にロマンチストな方。でも一番の魅力は、開拓者精神に飛んでいて、文化的な部分にも情熱を注いでいらっしゃること。こちらのファームには、取材以降、何度も通いました。半分は遊びで(笑)。ひとつ取材をすると、そこから興味がわいていろいろ広がっていきますね。富田さんが主催した、南フランスの香水の本場グラースへのツアーにも参加して、本場のラベンダー畑にも行きました。そこは本当にラベンダー一色の世界!」

だがどんなに美しくても、風景だけに惹きつけられるということはない。笹本さんがシャッターを切る場面にはいつも、夢に、仕事に、駆り立てられている人がいる。そして「 “きをつけ” をしていない自然な瞬間の写真」には、彼らの生き様が映り、写真の中でドラマが作られてゆく。

「取材したいと思った方には、自分の写真集に、 “写真を撮らせてくださいませんか” と書いたお手紙を添えてお送りします。でもフリーのカメラマンは大看板がないから、 “断られたらどうしよう、やめちゃおうか” って、いつも尻込みするんですよ。OKをいただけたとしても、取材に行って怖い顔で対応されるかもしれないでしょう。それでも結局は、最初に “写したい!” って思ったワクワクが勝ってしまって、走り出してしまうのね」

北海道で出会った人たちとのご縁から、2012年の春には、札幌の「六軒村文化工房」内に常設ギャラリーが開設されることとなった。そのことをたずねると、「ラッキーでしょ」と茶目っ気たっぷりに笑う。最近手に入れたお気に入りの地球儀を回し、次に訪れる場所とそこで待っている人に思いをめぐらせれば、胸は高鳴る。

「好奇心さえあれば、気持ちがあれば、いくつからでも必ず何かが始まるものですよ。せっかく生きているんだし、会いたいと思う人がいればどこにでも行きたいって、私は思っています。死ぬ暇なんてないくらい(笑)」

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