世界のセレブが集まる名店が 築地場外市場にあらわれた
ソレント半島にある名イタリアン「ロ・スコーリオ」が
日本で本場の味を再現
世界の美食を食べつくした本物のセレブリティがわざわざ船に乗ってやってくるという一軒の食堂がある。イタリアの中でも特に風光明媚な土地として知られるソレント半島、その北端にある漁村マリーナ・デル・カントーネにある「ロ・スコーリオ」だ。1953年、地元の漁師のためにスコーリオ=岩場の上に建てたその食堂のメニューは、開店以来ほとんど変化していない。たとえば、獲れたての魚介をトマトとオリーブオイル、海水だけで作ったアクアパッツァもこの店で生まれたという、世界中にその名声が響き渡る店だ。そして、イタリア料理の真骨頂であるシンプルに素材の旨さで食べさせる料理の数々がならぶ、その店の名を冠したレストランが築地場外市場、波除稲荷神社のほど近くに2011年10月オープンした。
この店のシェフである久野貴之さんは、2年前にナポリで行なわれたピッツァ職人の世界大会に出場した帰路、ソレント半島に足を伸ばし、そこで「ロ・スコーリオ」に出合った。通常、レストランで供される料理は、その多くが時代の流れの中で変化していくものである。しかし、「ロ・スコーリオ」は50年以上変化がない。新しい食材も使わない。地元で獲れた魚と店の裏で育てた豚や野菜だけ。けれど、その同じ料理をめがけて世界から人々が集まる。「あまりにもシンプルすぎるのに、どうしてこんなに旨いのか?」と驚かされた。オーナー家族と意気投合した彼は、良い素材を適切なレシピでシンプルに食べさせることがイタリア料理として一番重要であるということを改めて感じ、独立を機に日本に「ロ・スコーリオ」の支店を出すことになった。
独立前、約15年間は恵比寿でイタリア料理を作り続けていたが、都心に店を作るというイメージはどうしてもわかなかった。物件を探し始めたとき、たまたまピンポイントで見つけたのがこの築地場外市場という場所。素材を生かした料理を出すにはうってつけの場所だ。久野シェフはいう「築地市場近くにいるからといって、素材が安く手に入るわけではありません。けれど、毎日通えるこの場所にいると、同じ価格のものでも一段も二段も上の素材が手に入ります」。「ロ・スコーリオ」から受け継いだのはレシピとスピリッツ。シンプルなレシピで調理するということは、最高の素材を使わなければどこかに破綻が生じる。そして、料理人の腕がなければバランスが崩れてしまう。頭で考えるのではなく、体が美味しいという感じる類いの料理であるから、料理人としての力量が試される。極めて難しいスタイルの料理。そして、そのレシピを実現させるため、少しでも良い食材を使うべく可能な限り原価率をかける。
テーブルに運ばれてくる料理は、特に華やかでもなければ、洗練されているようにも感じない。けれど、口に含むとどこにもない料理であることが実感できる。それはたとえ、タコを切ってオリーブオイルで和えただけの極めてシンプルな一品であっても感じること。ヴィジュアルから受ける予想をはるかに上回る感動。それは、最高の食材と料理人の腕が出合ったときにのみ生まれるハーモニーだ。たとえ、ソレントでも、築地でも。
築地 ロ・スコーリオ
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