奄美大島初のEV充電スタンド寄贈記念 ~マングローブの子どもたちに会える村へ~
「昔は宇検村にもマングローブがありました」
まずは見てもらったほうがいい。湾に注ぐ河内川の浅瀬(見学時はおそらく干潮時)に並んだメヒルギの子どもたち。
これは、宇検村を含む奄美群島5市町村が2015年に策定した『奄美大島生物多様性地域戦略~自然と共に生きる奄美のしま創りプラン~』の中で、宇検村が2016年から始めたマングローブ再生事業の成果だ。その担当者が、宇検村役場の企画観光課に勤める藤 貴文さんである。
「地元の小学校で、メヒルギの苗づくりから植林までを授業に組み込んでもらい、実際に児童たちに植えてもらっています」メヒルギとは、海水と淡水が混ざり合う汽水域に生育する植物の総称であるマングローブを構成する一つの種だ。
「初年度から2年で600本の苗を植えました。ところが、残ったのは約30本。塩分濃度が高過ぎた場所に植えたのが原因かもしれません。種も近場のほうが合うだろうというアドバイスをいただいて、隣接する瀬戸内町のものを使ってみたり。試行錯誤の連続ですが、子どもたちに年100本の苗をつくってもらいながら、ようやくここまで来ました」
藤さんが子どもの頃によく見かけたリュウキュウアユを河内川に戻すのも、事業の目に見える目的らしい。沖縄本島ではすでに絶滅し、現在は奄美大島だけに生息している琉球列島の固有種だという。
「昔は宇検村にもマングローブがありました。第二次大戦中の古い航空写真で確認できます。昭和30年代に入ると干拓工事が行われ、すべて埋め立てられました。『エフエムうけんまつり』の会場になる観光拠点施設も、かつては汽水域だったんです」
自生を始めたマングローブの子どもたち
だから以前の状況に戻したくてマングローブ再生事業を始めた。その思いは頭ではわかる。だが、1年前にカヌーで渡ったマングローブ、奄美大島のエコシステムの中核を成す巨大な存在を体感したあとでは、何というか感覚が追いつかない。無論、藤さんたちの取り組みを揶揄するつもりは皆無だし、ましてや彼らが住用地区の規模を望んでもいないと思う。それでも、河内川の十分に幼いマングローブの子どもたちの将来を考えて気が遠くなったのは事実だ。
そしてまた、宇検村に人が住むため干拓が実行されたのは止むを得なかったとして、保護された一部のマングローブだけで奄美大島の自然を知った気になっていた旅人の傲慢さを恥じた。
そんな気分を現場では藤さんに伝えなかった。マングローブの子どもたちを見つめるその瞳が、あまりに優しかったからだ。
「ブルーカーボン生態系と言うんですね。マングローブは、大気中の二酸化炭素吸収量が飛び抜けて高いんだそうです。そういうことも学びながら事業を進めています」
藤さんたちの活動に企業が協力の声を上げた。2021年8月、伊藤忠商事株式会社が宇検村とマングローブ再生の取り組みを開始することで合意したと発表。同社は、温室効果ガスの排出量を購入クレジットで埋め合わせ可能な、日本初のCO₂クレジット創出も目指しているという。
「少し先を見ていただけますか」
指さす方に目をやると、か細い幹を伸ばしたメヒルギがぽつぽつと生えているのが確認できた。
「あれは、植林した苗から落ちた実が水に流れたところで芽吹いたものです。自生が始まっている証拠でしょう。植林している子どもたちにすれば、今はなんてことないのかもしれませんが、彼らが大人になったとき、自分たちが植えたメヒルギが大きく育っているところを見せてあげたいですね」
ゼロカーボン、気候変動問題、またはSDGs。それら世界中を取り巻く社会問題がぶち当たっているのは、望むべき元の姿に戻す難しさだ。今回訪れた宇検村では、その難題に自分たちの歩み方で寄り添っていた。結果を焦らず、けれど新たな芽吹きに取り組みの確かさを実感しながら。
そんな営みを、束の間であれその目で見て誰かに伝える喜びを得られるのは、余所者や旅人の特権なのかもしれない。EV充電スタンドで電気をフルに蓄えたRenegade 4xeでマングローブの子どもたちに会えたこと。それがこの旅最高の土産になったことは言うまでもない。
今回使用したクルマ
『ジープ レネゲード トレイルフォーク フォーバイイー(Jeep Renegade Trailhawk 4xe)』
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Text:田村 十七男
Photo:大石 隼土