Outdoor

2012.09.05

非日常的な空間で自然と対話する “茶室”的のようなツリーハウス

自由の象徴であるツリーハウスを
日本中に広めるパイオニア

  • main195 非日常的な空間で自然と対話する “茶室”的のようなツリーハウス
    ツリーハウス・クリエーターの小林崇さん。日本を拠点としながら、世界中でツリーハウスを制作。その独創性、繊細なクラフトワークに世界的評価も高い。
  • main280 非日常的な空間で自然と対話する “茶室”的のようなツリーハウス
    二期倶楽部の森の中にある、ツリーハウス。春夏秋冬、さまざまな表情を見せる。子どもよりも、大人の男性の利用が多いのだとか。
  • main373 非日常的な空間で自然と対話する “茶室”的のようなツリーハウス
    ツリーハウスから眺めることのできる、地層と木の根。自然の神秘性、ダイナミックさを目の当たりにさせられる。
  • main438 非日常的な空間で自然と対話する “茶室”的のようなツリーハウス
    居心地のよさにこだわったという空間には、ヨット用の薪ストーブとソファが設置。地層をイメージした壁は、目の前の崖の土を使用。
  • main524 非日常的な空間で自然と対話する “茶室”的のようなツリーハウス
    切り落とされた枝のカタチをそのまま入口に利用するなど、自然の風合いを活かしている。小林さんのツリーハウスにはそういった工夫が随所に見受けられる。

sub120 非日常的な空間で自然と対話する “茶室”的のようなツリーハウス

二期倶楽部の敷地内にある、自家農園のトマト。オーガニックで育てられ、レストランでは穫れたての新鮮な野菜がサービスされる。

sub219 非日常的な空間で自然と対話する “茶室”的のようなツリーハウス

テレンス・コンランがデザインした、NIKI CLUB & SPA(東館)の宿泊施設。4万2000坪の敷地のなかに、部屋数はわずか42室と広大な那須の自然を堪能できる作りだ。

sub319 非日常的な空間で自然と対話する “茶室”的のようなツリーハウス

二期倶楽部が共催するサマー・オープン・カレッジ「山のシューレ2012」(7/28〜7/30)期間中に公開された、ツリーハウスの四季を映し出したショートフィルム。小林さんと親交の深い、映像作家の清野正孝さんが撮影、編集を担当。

鳥のさえずりと川のせせらぎに耳を傾けながら、小川をつたって深い森に入っていく。ゆるやかに流れる時間に身をゆだね、ちょっと脇道に足をのばすと、突如、樹上に現れたのは、小さなツリーハウス。その傍らにじっとツリーハウスを見つめる男性がいる。制作者である小林崇さんだ。

栃木県那須塩原の高級リゾート、二期倶楽部から、「庭プロジェクト」の第一弾アーティストとして、白羽の矢が当たった。「庭プロジェクト」とは、特定非営利活動法人アート・ビオトープ主催の、人間と自然の新しいカタチを提示するプロジェクト。自然と共生してきた日本文化の長い歴史をふまえ、アーティスト、建築家、デザイナー、生物学者、生態学者、庭園師、人類学者、哲学者といった人々が集い、対話し、交感し、新しい庭をつくりだしてゆく共創の場だ。昨年2011年からスタートし、これからこのリゾート横沢の地を中心に、10、20年の時を見据えて、取り組まれる。

「二期倶楽部はただのリゾートホテルではない。会社のなかに学芸部もあるぐらい、アートや音楽などの文化活動にも積極的ですし、訪れる客も世界中の最高水準のものを知り尽くした人ばかり。そういった大人たちに認められるようなツリーハウスをつくりたかった」と小林さん。

小林さんがツリーハウスを作るときにイメージするのは、“茶室”や“庵”といった、厭世的で非日常的な空間。茶室の「小ささの中にある美学」は、ツリーハウスの世界観にもあると感じるという。二期倶楽部のツリーハウスには、そんな小林さんの美学がいたるところに反映されている。

重要なのはどの木を土台にするか。森をくまなく歩き回り、決定したのは、何百年もの歴史が刻まれた地層と、雨風に洗われて木の根がむき出しになった崖の前にあるクルミの木。アーティスティックで美しいラインを描いている根からは、自然の持つ力強い生命力と神秘性を目の当たりにさせられる。この地層と木の根が、ツリーハウスから一枚の絵のように見えるように窓を工夫した。切った枝を再利用してにじり口のような小さな入口を作り、室内には冬でも快適に過ごせるよう、ヨット用のコンパクトな薪ストーブを設置。その下には小さな窓があり、ソファに座っていると空中に浮かんでいるような錯覚に陥る。

屋根には苔、ツリーハウスを支える下の柱には蔓植物を植えた。月日がたつにつれ、少しずつ植物が建物を覆っていき、いつの日かツリーハウスは森と同化していく。

今まで世界中に100以上ものツリーハウスを造ってきた、小林さん。ツリーハウスに出合う前は、人付き合いが苦手で、社会と交わるのを避けるかのように世界中を旅していたという。帰国後、原宿で古着屋をはじめ、1992年にツリーハウスバー「ESCAPE」をオープン。建築の知識は皆無だったが、失敗を重ねつつも、頭の中にあるイメージを自分でカタチにしていくのはとても自然な行為だった。その2年後、ボストンの本屋で出合ったのが、世界的ツリーハウスビルダー、ピーター・ネルソンの著書『TREEHOUSES』。翌年、ネルソンが来日すると知り、主催者側に問い合わせたところ、幸運にも通訳として時間を共にすることができた。ネルソンからオレゴンで行われるツリーハウスビルダーのイベントに誘われ、本場アメリカのツリーハウスの洗礼を受けることになる。

「アメリカで見たツリーハウスは自由の象徴だった。でも日本ではツリーハウスは住居空間として認められていないし、禁止事項も多い。事故があったらどうするのか、誰が責任を取るのか、ということが最初に問題となる。日本でツリーハウスを作ることは大変だと思いました。でも自分は日本人ですし、将来、日本ってこんなにステキで、俺はそこですごいことをやっているんだぜ、と言いたかった。一つ一つハードルを超えていかないことには、夢は実現しないんじゃないかと思ったんです」

それから小林さんはツリーハウスを作り始めた。徐々に注目を集め、CMやTVで取り上げられたことがきっかけで、多くの人がツリーハウスのことを知るようになった。今では制作のみならず、ワークショップの講師や講演会などでも引っ張りだこだ。

大量生産の似たような建物が街中に氾濫しているなか、小林さんの造るツリーハウスは1つだって同じものはない。その土地にある木や石を使い、そこにあった環境を最大限にいかして造られる。予算がないからといって、妥協はしない。納得のできるものができるまでスタッフと話し合い、さまざまな可能性を考える。

ツリーハウスのメインとなる木は成長するため、建物というよりも“生きもの”の感覚が強いという。

「夢は伊勢神宮や、縄文杉にツリーハウスを造ることです(笑)。タブーといわれていることに挑戦してみたい。宮城県の松島など、日本中の美しい景観として知られる場所に点々とツリーハウスを建てるのもおもしろいかもしれない。ツリーハウスだけのリゾートホテルが海外にはあるんですが、そういった宿泊のできるツリーハウスもいつか実現するといいですね」と小林さん。

そう語る小林さんの真っすぐな瞳を見ていると、タブーがタブーでなくなる日がくるかもしれない、と思えてくるから不思議だ。飽くなき夢を追い求める、ツリーハウス・クリエーターの挑戦はまだ始まったばかりだ。

二期倶楽部

http://www.nikiclub.jp/