自ら考え工夫する面白さにハマる! 新しい価値感を創造する金物店
デザインや形より「行動する価値」を提案
新発想を呼び覚ます金物という名の可能性
とにかく”上がる”金物屋さんなのである。京都・北大路の閑静な住宅街の一角に突如出現する、ファンキーな佇まいの『BOLTS HARDWARE STORE』。小さな店舗だが、店内外の壁や棚の隅々までスタイリッシュな金物アイテムがずらり並び、外観からして通り過ぎる人をふと立ち止まらせてしまう活気に満ちている。オリジナル製品はもちろん、家具の引き手や水道ハンドルなど、国内外からのセレクトパーツも吟味され、それまでまったく関心がなかったアイテムにもついつい興味が湧く。そしていつしか我が家の構造を改めて考え直し、部屋の模様替えを妄想したり。小さなパーツを前に、ワクワクと脳を働かせている自分がいるのだ。 店主の朝陽鎮也さんは、かつて家具屋に勤務した会社員時代に、ちょっと考えこんでしまうことが多かったという。
「それぐらい自分でやったほうがいいのに、と思うことがよくあったんです。家具の納品でお宅に伺ったり、店頭業務でお客さんといろいろ話すなかで、工具を持っていない方も多く、”自分ではできない”という人が結構いらっしゃって。でも、修理とまではいかなくても、自分でできる範囲で直したり、工夫して使うのって、実は当たり前のことだと思うんですよね。そんな経験を通して”自分で考えて行動する”価値を提案したいと思い始めたんです」
ショップのホームページにもある通り、日常生活のちょっとした問題や不満は、自ら行動し工夫することで解決できることが少なくない。また、それによって未知の達成感や喜びも体験できる。朝陽さん自身、仕事を通して自分の手を動かして工夫する楽しさを実感した。そこで、もっと多くの人にこの楽しさを知ってもらいたいと、自然な流れで「金物屋さん」に至ったそうだ。
「なんでもかんでも引き受けるんじゃなく、ある程度”自分でやる”という部分を提案したかった。もともと素材として金属が好きだったこともありますが、家具の製作では必要に応じて金物も選ばなきゃいけなくて、最初は既製品で探すんですが、なかなかいい物が見つからない。だったら作ろうか、という発想です」
BOLTSのオリジナル製品のテーマは「新しい価値観」。たとえばそのひとつに、アルミの鏡面を使ったミラーキャビネットがある。ガラスミラーに比べればもちろん映りは劣るから、ちょっとした冒険だった。
「ステンレスを磨いたミラーはよくあるんです。ステンレスの方が強いし硬いし、それはそれでいいんですけど、僕はあえてアルミのヌメッとしたツヤがいいなと思って。アルミは磨き込む楽しさもあるし、自分で少し手をかけることで、より愛着も湧くと思うんです。それで一度世に投げかけてみようと」
すると「これくらいの映りでも別にいいよね」と、朝陽さんの思いに共感してくれる人が少なからずいた。
「オリジナルでは見た目や形の新しさより、従来”こういうものだ”とされていた既成概念を、イチから考え直していくことが最大のテーマ。用途によっては当たり前と思われていたものでも不要な場合があり、そういうことをひとつひとつ世の中に問い直していくというか。で、お客さんの反応で気づくことも多い。これでもいいんだって。僕としてはそんな価値をわかってもらえるだけでも大きいし、そもそもうちが存在できていること自体、新しい価値観を受け入れてくれる市場があるということですから」
ショップと並行して、朝陽さんは現在も受注製作で家具デザインや空間設計を請け負っている。金物と家具は、朝陽さんの中でどのような比重で存在するかという問いに、彼はこう答えた。
「同じですね。金物も家具もインテリアに関わる商品。家具を製作するうえで、どこに置くのか、どう使うかが大事であるように、フックひとつにしても、廊下の幅だとか、空間を考えることから始まります。だから空間を造るという意味では全く同じなんです」