想像/創造を超えた奇岩群
常に世界中を飛び回る熊谷隆志さんが、忘れられない場所と差し出した一枚の写真。
そこに映された自然の神秘とは?
「サーフィンを始めたのを機に、自然に向き合うようになった」
最近上梓した庭や緑にまつわる自著『GREEN LIFE』で、熊谷隆志さんはそう語る。本著では、フォトグラファー、スタイリスト、クリエイティブディレクター、バイヤー……、いろいろな肩書きとともに世界を飛び回る彼の視線を捉えた、さまざまな庭や植物が紹介されているのだが、そのどれもが、緻密に計算された造形美とは異なる、あくまで日常的で有機的、そしてささやかな美しさをたたえたものばかり。他方、自身のブログでも、日々の話題の中心は庭や植物であり、それらの小さな変化に目を留め向き合うことが、彼の日課になっている。今、彼の想像力を触発するのは、その対象が庭であろうとファッションであろうと、一目瞭然のエクストリームではなく、「何気なさの裏側に潜む、密かで普遍的な美しさ」なのだ。
しかし、そんな熊谷さんの近年の旅の中でも、忘れ得ない不思議な風景として脳裏に強く焼き付けられた場所がある。それが、ニュージーランドの南島南東部に位置する、北オタゴ沿岸部のモエラキ海岸。自然界の神秘に満ちた旅の目的地の一つとしても、有名な場所だ。
その理由は、砂浜に打ち上げられた(あるいは宇宙から落とされた未確認生命体のような?)巨大玉石の数々。中には、熊谷さんの身長を超える大きさの岩もある。「ファンタジックであると同時に恐ろしく奇怪。とても人知の及ぶ光景ではない」——熊谷さんの写真に収められた球岩たちは、空を仰ぎながら、まるで何かを待っているかのようにも見える。
先住民マオリの伝説によれば、食物などの物資を積んだ先住民の船が航海中に転覆した際に、漂流して浜辺に打ち上げられた食べ物の籠とされているそうだ。つまりこの球岩は、マオリたちにとって、その航海がいかに過酷な挑戦であったのかを象徴するもの。実際には、これらの岩が果てしない歴史の中でどのように形成されていったのか、科学的にも解明されているようだが、いずれにせよ、想像を遥かに超えた圧倒的な時間の量と自然界の不思議な力がかけ合わさって、この途方もない風景が創造されたという事実こそが、ものづくりに携わる熊谷さんの心を掴んだことは間違いない。
「僕は、いわゆる世界遺産と呼ばれるような場所に行っても、そう簡単には感動しないんです。けれども、この奇岩の群れを眼前に、それはもう、理屈抜きに驚嘆するしかありませんでした。人間のイマジネーションの及ばない自然界のクリエーションに対して、僕はなすすべがないんです。たとえそれが、小さな花であっても、巨石であっても」
TAKASHI KUMAGAI
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