スキーヤーとして求めているのはJeepの強さ
一方で隼太氏は、年齢に見合わないJeepキャリアを有している。というのは、全日本選手権ダウンヒルで優勝経験を持つ父の若月等氏が、2ドアと4ドアを2台ずつ乗り継いだ生粋のラングラーファンだからだ。子どもの頃からJeepに親しんできた彼は、Jeepにこんな憧れを抱いている。
「速さと強さ。その両方を兼ね添えるのが僕のスキーの理想です。現在の自分の武器は速さですが、どんな場面でも揺るぎない滑りができる強さが足りない。けれどラングラーは、どんな場所でも走って行けますよね。僕が求めているのは、あのタフさです」
ラングラーをよく知っている隼太氏に、改めてグラディエーターの感想をたずねてみた。
「ラングラー自体がモデルチェンジして、すべてがパワフルになった印象です。高速道路の運転も楽ですね。苗場から東京も普通に行ける。ただ、都会でピックアップの取り回しは大変ですけれど。でも、荷物がたくさん積めるのはいい。僕は基本的に夏場の日本でしか運転できませんが、すでにグラディエーターはどこへ行くのも楽しいです」
その夏場のもう一つの楽しみが、ペンションのDIYリフォームだという。昨夏はBBQもできる木製テラスを自作。ヨーロッパの人々が自宅を大事にする習慣に感化されたらしい。
「アットホームなペンションをオシャレにしていくのが僕の夢なので、時間があれば手をかけています。実は、壁を緑色にしたいと言い出したのは僕なのですが、それで跡継ぎ問題が浮上しました。そのときは、今できる親孝行はスキーで結果を出すことだと納得してもらって……。まぁ、親孝行に終わりはないんでしょうけれどね」
取りも直さず隼太氏にとっては、自身の計画に則った競技活動が最優先だ。それを果たすための武器の話が出たが、彼が持ち得た最大最強の武器は、やはり濃密な時間だと思う。若月隼太というスキーヤーは、落差が激しいジェットコースターのような天と地の軌道を、まだ十分に若いライフタイムで一気に体験した。その特別なキャリアを糧とし武器へと変換できるのは、あるいは彼だけに許された特権かもしれない。
「アルペン競技のコースは、同じ条件になることがありません。会場によって雪質は異なるし、元々の地形が違うし、積雪量でも斜度が変わるので、スタートして飛び込むまで状況がわからない。それでも頭で考えたら間に合わないんです。すべて感覚で反応して、リスクを冒してまでも理想のラインを滑り切る。そんな1分足らずの世界に集中力を研ぎ澄ますレースが何より楽しい。やっぱり僕が好きなのはスピードですね」
平然、または堂々。いずれにせよ隼太氏は、グラディエーターのデッキにスキーを積み込むときですら、あえて言えば24歳とは思えない落ち着きを見せていた。その自然体が彼のフィールドで最大限の輝きを放つ日を心待ちにする。
Text:田村 十七男
Photos:大石 隼土