The Future of Freedom 〜本物の自由を見つけた者たちの言葉〜 〈Vol.5 ARCHITECTURE〉北川原温

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時間と魂とイマジネーションが宿る建築

11年ぶりのフルモデルチェンジが話題を呼ぶ『All-New Jeep® Wrangler』。Jeep® の歴史を培ってきたこの一台と同じく、揺るぎない信念を持つプロフェッショナルの7人が、進化の先に辿り着いた自らの本物の自由を語るスペシャルインタビュー企画の第5弾をお届けする。今回は〈ARCHITECTURE〉のジャンルから、国内外、そして公共民間を問わず、斬新な発想で数々の独創的なデザインの建築を手掛けてきた北川原温。すでに巨匠と呼ばれる存在でありながら、今なお衰えぬ創作意欲を維持する北川原が追い続ける建築の可能性、そして創造の先に見つけた本物の自由とは?

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建築は“ごろん”と転がっている石ころではない

時を遡ること1986年。渋谷のスペイン坂に、ドレープカーテンのような装飾が屋根を覆う異形なビルが突如姿を現した。その建築の正体は、映画館ビル『ライズ』(2016年閉館。跡地はライブハウス『WWW』)。建築家・北川原温の初期の代表作として知られるこの建物は、フランスのCasa Vogue、米国のArchitectural Recordなど多くの海外メディアでも紹介され、北川原の名を一躍世に知らしめることになった。

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▲シネマライズ(撮影:大野繁)

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▲シネマライズ(撮影:大野繁)

「ライズを作った時は反抗心がすごくあってね。日本の中でも東京の都市文化を批判的に見ていて、“何でこうなんだろう”という疑問がたくさんあった。でも、いろいろなものが衝突しながらダイナミックに動いている都市が東京だし、その都市の景観がどんなものなのかを考えていった結果、わざと常識的じゃない組み合わせ方を試みたんです。映画はある意味で作られた世界を見るわけでしょ? それは現実とは異なる世界だったりもするわけで、ライズも現実とは異なる姿にした方が映画館らしく見えるんじゃないかと思って作ったんです。ライズはその後、外観はあんまり変わってないんだけど中は何度も変わって、まさにその時代の文化を象徴するように変化しました。僕はそれに関して何か言ったことはなかったけれど、僕が“これはすごく大事だ”と思っていた部分に関しては、オーナーが変えずにいてくれたのかもしれませんね」

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北川原はその後、1991年に都市型の集合住宅『メトロサ』で日本建築家協会新人賞などを受賞。さらに、1990年代には山梨県甲府市の工業団地『アリア』を手掛け、その都市デザインと自然環境との融合が評価されて1995年にグッドデザイン賞金賞、そして1997年には日本建築学会作品選奨を受賞した。さらに、北川原のものづくりの精神は建築や都市計画のみに留まらず、インテリアや家具、小物類のデザイン、または展覧会のアートディレクション、はたまた世界で最も著名なモダンバレエ団、ネザーランド・ダンス・シアターの舞台美術などを手掛けるまでに。既存のスタイルにとらわれない表現領域の幅広さ──それが北川原を稀有な存在へと高めた。

北川原がこれまで関わった作品は100を超える。その原動力は、果たしてどこから生まれてくるのだろうか?

「でも他の分野、例えば絵画とか音楽ではもっとたくさん作品を生み出している人はいるし、100ぐらいでは全然自慢にならない。それに僕はたくさん作りたいというよりは、ひとつの仕事にものすごくエネルギーをかけたい方。ただ、頼まれると頑張ってしまうので、寝る暇が無くなっちゃうんですよね」

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数々の著名な建築を手掛けてきた北川原に建築の魅力を尋ねると、「難しいな……それがわからなくて建築をやっているのかもしれない」と笑った後、少し考えながらこう答えた。

「例えば音楽とかは、“こういう曲を作りたい”と思った時に楽器があれば自分で作れて、なおかつそれを誰にも教えないで自分の胸の内に閉まっておくこともできる。でも建築って自分で作るのではなくて、誰かに頼まれて作る。さらに工事に入れば、たくさんの職人さんたちと話をしながら作っていくので。つまり、自分ひとりで作るのではなくて、人と人との関係性の中でも生まれていくということ。建築というのは、“ごろん”と転がっている石ころのようなものではなくて、いろいろな要素が有機的に繋がって存在しているものなんです」

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既成概念を覆すものによって想像力は生まれる

北川原の代表作のひとつに、2007年に公開された『中村キース・ヘリング美術館』がある。この美術館は、キース・ヘリングのコレクションのみを展示する世界初のプライベート美術館。2008年に村野藤吾賞とアメリカ建築家協会JAPANデザイン賞、2009年にJIA日本建築大賞、そして2010年には日本藝術院賞と数々の栄誉に輝いた。

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「キース・ヘリングは、ニューヨークの地下鉄のグラフィティを芸術にまで高めた人物ですが、当時のニューヨークの地下鉄は闇の空間というか、社会制度からずれた空間というイメージがあって。そこから闇というものをテーマにした美術館を考えました。美術館を丘の上に埋めて地下に展示室があって、部分的に上空からの光を取り入れる構造に。ただし、キース・ヘリングは決して暗さだけではなく、希望を求めて人は明るく生きるべきという考えを持っていた人だったので、最後は光が充満している大きな展示室にしたんです」

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All Keith Haring Works © The Keith Haring Foundation. Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection

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All Keith Haring Works © The Keith Haring Foundation. Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection

この美術館は、光と闇、生と死といった両極の概念の繋がりを絶妙に表現するとともに、美術館自体が取り囲む八ヶ岳の自然と見事に調和。この作品からもわかるように、自然は、北川原の建築において重要な意味を持つ。

「僕は長野県の山で育ったので自然が好きなんですよ。例えば、東京のど真ん中で仕事をしている時も、頭の中は海を泳いでいるとか、アマゾンの森林の中にいるとか、アフリカの砂漠にいるとか、自己催眠じゃないけど自分を無理矢理にでも自然へと持っていく。もちろん、本当に自然の中に行けばそれは肌身で感じられるんだけど、あまりそれに慣れてしまうと、自然の一部になってしまって何もしなくなっちゃう。僕の場合、人工的な環境にいれば何とかして自分が自然に帰ろうとして頑張ることによって、新たなイマジネーションが生まれるんです」

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北川原のものづくりを支えるイマジネーション。建築においても、「いかにそこへ訪れた人のイマジネーションが豊かになるか」を、北川原は常に考え続けてきた。

「例えばオフィスの場合、机に向かってパソコンで仕事をしていて疲れてくると、上を向いたりするでしょう。その時に普通の天井だったら、ストレスを発散できずに溜まっていってしまう。ただし、見上げたときにストレスが飛んでいくようなデザインや仕掛けがあったら、もしかしたら新しいイマジネーションが湧いてくるかもしれない。既成概念を覆すものによってイマジネーションは生まれ、それによって縛られているものから解放される。それはある種の自由のようなものだと、僕は思います」

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“目”のある建築が時代を超えて生き続けていく

北川原が自由という言葉を意識し始めたのは20歳のころ。ある詩人との出会いが北川原の意識を劇的に変化させ、その原体験は、その後のものづくりの根底にあり続けることとなる。

「19世紀末のフランスで、若くして亡くなったロートレアモン伯爵という詩人がいて、彼の“マルドロールの歌”を20歳の時に読んだんです。すごい衝撃を受けて……もう大学は意味が無いと思ったほど。それを読むまでは、この世界がどのように作られているのかを考えたことも無かったし、僕はできあがったシステムの上を歩いてきたことに気づかされた。そしてそれが、ものすごく不自由なことだったということも。今度、大学を退任するんですが、それを学生たちにも知ってもらいたいと思って新たな展示も作りました。ロートレアモンの棺をイメージして、遺体が中に入っているというイメージなんです。この遺体を見守っているのは天使ですが、翼が大理石なので“飛べない天使”。胴体は鉄の塊で、目も鼻も耳も口も無い――がんじがらめの天使なんです」

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ものづくりの人間にとって、自由を獲得することは並大抵のことではなく、作り続けることでしか自由を獲得する方法は無いかのように思える。現時点で、北川原にとっての自由――それを尋ねると、「何か答えが見つかったとき。そしてそれが見つかると、その建築には魂が宿る」という答えが返ってきた。

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同時に、その魂が宿った建築も時とともに変化していくことは建築という性質上、避けることはできない。生みの親である北川原は、それをどのような思いで見ているのか。

「建築ってできあがった時が出発点。できあがってからどう育っていくか、どう社会に受け入れられていくのか。ずっと変わらないというのは不自然だと思うんですよ。やっぱり時代の流れとか、いろいろな文化の変化とかもあるし、その中で建築が生き永らえていくとしたら、その時代ごとの顔を持つ建築になっていくのがいい」

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さらに、自らの手掛けた建築の成長や変化は、子どもに抱く感情と同じとも語る。

「やっぱ気になるから見に行ったりしますよ。やっぱり子どもが大学に入ったり、海外に行ったりしたら“大丈夫かな”って気になるのと一緒。設計した人の手を離れて変化していくのが楽しいし、自分が思ってもみなかった方向に激変して感動することもあります」

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建築は積み重ねた時間が長ければ長いほど、その空間に時間が堆積し、厚みが出てくる――そこに“建築”と“建物”との違いがあると、北川原は悟った。

「古い建築で僕が何を見るかというと、そこに漂っている空間が持つ時間。僕が作ってきた作品が築100年経つ前に僕は死んじゃいますけど、もし運良く天国に行けたら、その作品がどうなるのか何百年も見ていたいですね。それに、100年経ったら若い建築家が出てきて、ほとんど違うようなものにリニューアルしちゃっても、それが面白ければ素晴らしい。だってまた新しい命が吹き込まれて、次の時代を過ごしていくわけですから。建築って最初にできあがるんだけど、そこから出発して成長していくんです。あと僕は、建築には“目”があると思っていて。通りに面している建築だったら、その通りをずっと眺めているわけですから。だけどそのためには、“目”のある建築を最初に作らなければならない。目があるのが建築、無いのが建物だと僕は思っています」

北川原の生み出す“目”のある建築は、時代ごとの表情を見せつつ、時に新たな出会いを通じて生まれ変わりながら、これからも生き続けることだろう。

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北川原は現在、“空間そのものが動く”という新たな展示の可能性を模索している。インターナショナルのコンペで採用されたものの、今のところ実現は難しく保留になっているという。しかしもし実現すれば、新たなイマジネーションを生み出す空間がそこに誕生するに違いない。スペシャルインタビュー動画は、Abema TVで配信中。

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▲撮影:Masato Yokoyama

Text:ラスカル(NaNo.works)
Photos:大石隼土

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