The Future of Freedom 〜本物の自由を見つけた者たちの言葉〜 〈Vol.3 ART〉スプツニ子!

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世に蔓延る常識に素朴な疑問を投げかけるアート

11年ぶりのフルモデルチェンジが話題を呼ぶ『All-New Jeep® Wrangler』。Jeep® の歴史を培ってきたこの一台と同じく、揺るぎない信念を持つプロフェッショナルの7人が、進化の先に辿り着いた自らの本物の自由を語るスペシャルインタビュー企画の第3弾をお届けする。今回は〈ART〉のジャンルから、常識にとらわれない作品を生み出す現代アーティスト・スプツニ子!が登場。メディアではいわゆる“強い女性”の象徴のように扱われがちな彼女だが、インタビューで語るその言葉からは、素朴な素顔と自らのアートを支え続ける自由な精神が垣間見えた。

常識や正しい生きる道だと思っていることへの違和感

「私がアートを好きだなと思う理由は、人には多様な生き方や考え方があるんだなってことを実感できるところ。それは作りながらでも、見ながらでも」

新宿生まれ、新宿育ち。多種多様な人種や価値観が入り交じるカオスな街で、スプツニ子!は幼少期を過ごした。そのときの経験から皮膚感覚で知った“当たり前の世界は人によって違う”という彼女の価値観。そして、両親は数学者で父は日本人、母はイギリス人のハーフという自身の出生に対する日本社会での苦い経験もあった。

「ハーフということもあり、幼稚園、小学校のときは日本で“外人!”とイジメられました。それに私は数字やコンピューターが好きだったけど、“数学は男の子がやるもの”みたいに同級生たちに言われて。人々が常識と思い込んでいること、これが正しい生きる道と思っていることによって、どれだけの人が苦しい想いをしているか――」

そんな想いを抱えながらも勉強は得意だったスプツニ子!は、高校を一年飛び級してロンドン大学インペリアル・カレッジへ。数学とコンピューター・サイエンスを専攻していた彼女だが、音楽も好きだったことから作詞・作曲をして好きな歌でライブを披露したという。それがスプツニ子!というアーティストの始まりだ。

「バンドにしたかったんですけど、歌詞が変すぎて誰も私の曲を演奏してくれなかったんです(笑)。中学のときから音楽はすごい聴いていて、クラフトワークとかアニマル・コレクティヴとか、日本だとあふりらんぽとかボアダムズとか。高校時代の同級生はブリトニー・スピアーズとかを聴いていたから、あんまり音楽話ができなかったですけど」

音楽と同じく、アートの世界も子どものころから好きだったスプツニ子!。中高時代は美術館によく通っていた。

「アートが面白いなって思ったのは、美術館へ行くと何だかよくわからないものが並んでいて、例えばデュシャンは便器にサインしたら“これが芸術だ!”と言う。何でだろうって思うじゃないですか? アートってつかみどころがないし、写真もインスタレーションもあれば、感覚的なものも批評的なものもある。学校の宿題は退屈だったけど、アートからは刺激をすごくいっぱいもらえたんですよ。そして私には数学もアートも音楽も、それぞれの方法で世界を探求しているように見えた」

不思議に思うことや、答えが無いことを探ってみたい――そのころから現在のスプツニ子!に繋がる純粋な好奇心が、にょきにょきと顔を出し始めていた。その存在は、すぐに世に知れ渡ることになる。

女性のアンタッチャブルとMoMAからのオファー

スプツニ子!の代表作であり、世にその名が知られるきっかけとなった作品が、男性が女性の生理を疑似体験するためのマシーン。そしてこれは、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art)における卒業制作の作品だ。

「お腹に電極が付いていて、そこから電流が流れることで鈍い痛みを感じて、さらに後ろのタンクに血液を入れることで5日間ぐらい血液が流れ出ていって……っていう仕組みです。本当はそれ以外にもホルモンバランスが崩れて精神的に不安定になるとか、女性は毎月とても大変な思いをしているので、それを少しでも体験できるデバイスを作れないかと思って」

▲スプツニ子!/Sputniko! – Menstruation Machine, Takashi’s Take

映像作品では、女装のために生理マシーンを装着する「タカシ」というキャラクターに扮し、音楽も作曲し、ミュージック・ビデオも監督して動画をYouTubeに投稿。すると動画の再生回数が1週間で20万回を超え、その評判が評判を呼び、最終的には東京都現代美術館、NY近代美術館(MoMA)から展示オファーが届くという異例の事態に。するとメディアはこぞって彼女をフィーチャーし、“革新的な現代アーティスト”と評した。

「当時はまだ24歳の学生で一度も展示したことが無かったのに、いきなりマシュー・バーニーみたいな有名作家と並んで展示されることになったんです。2014年にはMoMAで生理マシーンについての議論イベントも開催されました。つい先日も、MoMAキュレーターのパオラ・アントネッリさんが私の作品をプレゼンで紹介しながら“私がMoMAをクビになりそうになった作品”と言ってくれて(笑)。物議を醸した作品かもしれないですが、そこからいろいろ声がかかるようになった私の中で大きな存在の作品です」

制作に取りかかる前から、スプツニ子!の中に作品のテーマはずっとあった。

「女の人って毎月生理になることで、自分が人間であることを認識させられていると思うんですよね。これが無くて生きると、一体どんな気分になるんだろうって思春期から良く思っていました。私、仕事の調子が良いときは“なんでもできる!スーパーウーマン!”ってよく思うんですけど、生理のたび“あ、やっぱり人間だわ”って自覚するんですよね(笑)。でも、生理というツッコミが無い男の人はどれだけ自分を人間以上と勘違いするのかなと思って。ハハハ。そして人類の半分が毎月血を流すのに、そのことが社会的にまるで存在しないかのように隠されていることにも違和感を感じていました」

これはすごいものを作ったんじゃないか――そんな感覚がスプツニ子!にはあったという。そしてふと「これはMoMAに展示されるな」と思った彼女は、編集室の仲間にそれを冗談交じりに言っていたそうだ。

MoMAからオファーのメールが届いたのは、その3ヵ月後のことだった。

アートの力と、日々に生活の中に転がる小さな自由

「私は特に自分の作品に何か明確な役割を持ってほしいと考えていないんですけど、いろいろとツッコミを入れることは多いです。例えば、残念ながら日本には“女性は勉強しすぎない方が良い”というプレッシャーが、保守的な地方にまだ残っている。しかし女性がそれを乗り越えて医大を受験したら、今度は医大から差別を受けて一律減点されてしまう……日本で女性として勉強して身を立てていこうとすると、罰ゲームの連続みたいな状況なんですよね。そんな現状をアートのブラックユーモアで茶化しながら、これどうなの、おかしいでしょ、みたいなことはしますね」

ただし、スプツニ子!は何も背負っていない。そして、“強い女性の代表”という柄でもないと自身について語る。それは彼女に「自由を感じた瞬間」を聞いたときの答えに表れていたように思う。

「最近、大量のシャボン玉を作るカエルのおもちゃを買ったんですよ。あれって子どものころ部屋の中でやったら、大抵は親に怒られるじゃないですか。でもそのカエルを買ったとき、大人になるってことはいくら部屋の中でシャボン玉をやっても誰にも怒られないことなんだなって思って、すごい自由を実感しました。わりとみんな自由だと思いますよ、日々の生活の中で自由を見つけたら。小さな自由が転がっていて、その積み重ねがその人の自由さなのかもしれない」

いつも歩く道をスキップしながら行くことも、踊りながら行くことも、スプツニ子!にとっての自由。「変な人と思われるかもしれないけど、別に自分がどう道を歩いても自由ですよね」と笑う彼女だが、その縛られない精神こそ、彼女が生み出すアートの根本にある。

「私たちは無限の可能性の中で生きているわけで、いろいろな生き方や考え方をしている人がいる、多様な宗教や文化もある、差別や戦争に苦しむ人もいる。でもまぁ、人ってタフだし、それぞれ生きて、海でも山でも都会のビルでも、それぞれの景色を見ながら、友人と楽しく飲んだり、愚痴を言い合ったり、おならしたり、ご飯を食べてる。何でもありなんです。その無限の中で、自由とか幸せだって思うのは、もう自分の感じ方次第で。その実感を持つことが自由に近づく一歩なんじゃないかって思います」

スプツニ子!の最新作『幸せの四つ葉のクローバーを探すドローン』には、「人工知能を搭載したドローンが、幸せの四つ葉のクローバーを自動で全て探し出してくれたら、人はもっと幸せになれるのか?」という、皮肉な問題提起が込められている。彼女は「アートを通して人々を啓蒙したいわけでもない」と言う。世に蔓延る常識に素朴なツッコミを入れる、ただそれだけの話なのかもしれない。そしてそれをアートと呼ぶかは、あなたの自由だ。スペシャルインタビュー動画は、Abema TVで配信中。

▲撮影:Masato Yokoyama

Text:ラスカル(NaNo.works)
Photos:山口真由子

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