Outdoor

2012.10.24

天空を垣間見たアンコールワット

朝に夕に姿を変えて見せる
圧倒的な時間をたたえた伽藍

  • main123 天空を垣間見たアンコールワット「アンコールワットの向こうに日が昇る。その神々しさは言葉にできませんね」と平山さん。
  • main28 天空を垣間見たアンコールワットおだやかな濠の水面にその身を投じるアンコールワット。
  • main35 天空を垣間見たアンコールワット朝日を拝みに来る観光客。日が出るまでその人数がまったくわからないそうだ。

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「自分の意識の解放と集中には旅だなあと思いました」。

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アンコールワット最上階の第3回廊。それまでの親しげな空気が一変。空が見えるのに圧力を感じさせる異様な緊張感が漂っていたという。

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3つの太陽が姿を現したアンコールワットの遠景。より一層神秘さが増す遺跡地帯。

に出る理由は人それぞれだ。初めての土地への好奇心や、そこに身を置く冒険心を満たしたい場合もあれば、自分へのギフトにエアチケットを選ぶこともある。しかし、平山祐介さんのカンボジアの旅は、今いる場所から逃げたい衝動に背中を押されたものでもあった。

「ちょうど40歳の誕生日が来るタイミングでしたが、息詰まるというほど深刻でなかったにせよ、確かな手応えをつかめないまま節目を迎えていいのかと思い悩んでいて、何かこう、東京にいるのが嫌だったんです。それで、これはもう旅しかないと決めて、ずっと行きたかったアンコールワットを目指しました」

特に遺跡に惹かれるのだという。ローマ市街、ガウディのバルセロナ、サン・マロ湾のモン・サン・ミシェルはいうもおよばず、仕事やプライベートで訪れては、有名無名を問わずあらゆる遺跡を訪ね歩くそうだ。

「石の壁などに寄り掛かってみると、その遺跡ができてから現在までにどれだけの人がそこに触れ、また何を考えてたんだろうかと、そんなことを想像します。数ある建築物の中で、その建物が残った理由に思いをめぐらせるのが楽しいですね」

2010年11月12日。カンボジアの空港に到着したのは夜。現地タクシーのトゥクトゥクをチャーターして、その日はホテルへ。そして翌朝、待望のアンコールワットに向かった。

「日の出前の遺跡周辺は完全な闇で、周囲にどれだけ人がいるのかまるで見えないほどです。そんな中、遺跡の向こうに日が昇る。その神々しさは言葉にできませんね。後に写真を見て驚いたんですけど、濠の水面に太陽が2つ写っているんです。本物と併せて3つの太陽ですよ。なんでしょうね、その不思議さは」

例のよってここでも遺跡めぐりの全部確認を実行。アンコールワットと並ぶ巨大なアンコールトムはもちろん、名前も知らない小さな寺院が気になれば、そのたびトゥクトゥクを止めた。「運転手とはまったく言葉が通じなかったけど、辟易しているのはよくわかりました(笑)」

そうして広大な遺跡群を気の向くまま回りつつ、アンコールワットだけは朝夕の参拝を欠かさなかった。自分でも説明がつかない引力のようなものを感じたというのだ。

「これまではどんな遺跡でも広場で(いつも携帯している)文庫本を読めたんです。でも、アンコールワットは違った。夕陽まで間があるのに本に興味が向かず、景色を眺めながらずっと考え事をしていたんですね。そういう時間を僕に与えてくれたのかと、今はそう思うんです」

それは誕生日の翌日。この旅の最後の朝にサプライズは起きた。日の出を見た後、アンコールワットの長い階段を昇っていると、上階から下りてくるお坊さんとすれ違った。もしや閉ざされていると思い込んでいた最上階の第三回廊に行けるのでは? と気づき尋ねると、人数制限はあるが可能だと教えてくれた。平山さんは、毎日通い続けたご利益だとよろこんだ。

「天空のイメージ、なんでしょうね。神聖な領域だと感じる半面、ここだけは長居をしちゃいけないような圧力もありました。やっぱりすべてが別格でしたよ、アンコールワットは。12世紀の建造物が現代に残るのは、その当時から途轍もない迫力があったからなんでしょうね。僕は30代で役者を始めて、なかなか思うようにいかず、それで40歳を迎えることにビビっていたんです。でも、アンコールワットの歴史の重さ、抱えている時間の厚みを目の当たりにして、やりたきゃやるしかないだろ? と気持ちよく吹っ切れました。だからやっぱり旅にでなきゃダメだと、自分の意識の解放と集中には旅だなあと思いました。また行きたいですね。こういう豊かな旅ができるようなライフスタイルを確かなものにする目標としても」

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