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生の喜びを肌で感じる"グラン・ブルー"

水深100メートル付近、
見渡す限りブルーが広がる特別な領域

Monday OCT 17, 2011 ― The Big blue

Photos:Sachihiko Koyama (STUH)
Text:Teruyasu Kuriyama

水深100メートルまで無呼吸で潜ったダイバーは世界で20人足らずしかいないという。
©Fred Buyle

今夏、ギリシアで行われた世界選手権は、日の丸をあしらったウェットスーツを着て金メダルを狙った。
©Fred Buyle

競技にも使うフィン(足ひれ)を肩に担いでインタビューに現れた篠宮さん。焼けた肌が印象的だった。

「動機」「挑戦」「克服」「夢」という4つのキーワードをもとに書かれた新刊『心のスイッチ』。巻末には登山家・栗城史多氏との対談も掲載されている。(竹書房/¥1,470)

ヒトの生命維持に「呼吸」が不可欠なのは誰もが知っているが、日常生活で意識することはまずないだろう。心臓が動いているのと同じように、起きている間はもちろん、寝ている間もその行為をごく自然に行っているからだ。

今回話を聞いた篠宮龍三さんは、そんな人間が生きるうえで必要な呼吸を一切行わずに海に潜るフリーダイビングの競技者。日本での知名度はまだ低いが、ヨーロッパでは人気のあるスポーツだ。水深何メートルまで潜れるかを競う世界選手権も各地で行われており、篠宮さんは上位入賞の常連でもある。

篠宮さんがフリーダイビングに興味を持ったのは、ジャック・マイヨールとエンゾ・マイオルカという実在する2人のフリーダイバーの友情と軋轢を描いた映画『グラン・ブルー』(1988年公開、監督/リュック・ベッソン)によるところが大きい。篠宮さんはこの映画で初めて知った「グラン・ブルー」という言葉とその存在に魅了された。水深115mのアジア記録を持つ今でも、グラン・ブルーが特別な場所であることに変わりはない。
「青い闇、ですね」

篠宮さんはグラン・ブルーをそう評した。海に潜っていくと、水深が深くなるにつれライトブルーからディープブルー、そしてダークブルーとまるで色見本のように海の色は表情を変えていく。さらに潜降して太陽の光が届かなくなる一歩手前に、グラン・ブルーは存在するのだ。
「光がまったくない、青一色。上下左右、見渡す限りがブルーの世界なんです」

海によって異なるが、おおむね水深80~90メートルを超えるとグラン・ブルーと呼ばれる領域に入る。けれど、それは死と隣り合わせの状態でもある。水深80メートルにもなれば地上の9倍の圧力がかかるからだ。パンパンに空気が入ったサッカーボールであれば、ペシャンコになってしまうほど。人間の肺であれば拳ほどの大きさになる。
「そんな極限の状態にも関わらず、そこでは生の喜びを感じられるんです」と篠宮さん。極限状態に近づくにつれ、思考が削ぎ落とされてシンプルになり自分と海の境界線がなくなってくるという。
「自分の皮膚がどこまでなのかわからなくなるときがあるんです。気が付けば自分が海と一体になった気にさえなってくる。聞こえてくるのは心臓の音だけ。『ドクンッ』という鼓動を聞くと、僕は海に生かされているんだって」

水深100メートルに到達するには、わずか2分ほどしかかからない。しかし、篠宮さんにとっては何よりも濃く深い時間なのだ。
「海は鏡のようなものだと思うんです。たくさん練習を積み努力すれば、その分だけ海は喜びを与えてくれるし、敬意を持って接すれば海も同じように受け入れてくれます。逆に努力を怠り、敬意を払わなければ必ず痛い目に遭います。海は、僕にとって学びの場であり、成長の場でもあるんです」

水深100メートルを無呼吸で潜ったのは世界で20人足らず。篠宮さんは青い闇のさらにその先を追い求め、今日も海に潜っている。

篠宮龍三オフィシャルサイト
http://www.apneaworks.com

篠宮龍三
プロダイバー。1976年埼玉県生まれ。ジャック・マイヨールに憧れてフリーダイビングの世界に入る。2004年からプロに転向し、2008年4月にアジア人初となる水深100メートルに到達、2010年には水深115メートルのアジア記録をマークした。国内唯一のプロ選手として国際大会に参戦しながらも、スクールや大会運営、「One Ocean 海はひとつ」をテーマにした海洋保護の活動も行っている。
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