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craftsmanship

妥協なきものづくりを注入した
スキーブランドの最高峰

究極の乗り味を求め、ミリ単位の設計にこだわった
バックカントリースキーの板作り

Friday JAN 13, 2012 ― Yokohama

Photos:Sachihiko Koyama (STUH)
Edit & Text:Shogo Hagiwara

『GENIUS』と名付けられたパウダースノーでより威力を発揮するスキー板を手に説明する秋庭さん。

現在、『VECTOR GLIDE』を取り扱うフルマークス社のオフィスにて。

1960年代後半〜80年代前半のスキーデザインにもっとも影響を受けているという秋庭さん。
デザインは気持ちが良いくらいシンプル。

プロスキーヤーとしての経験をいかして、バックカントリー用のスキー板作りにも超一級のこだわりを見せる。

秋庭さんが指差すのは、20本限定で作られた『MASTIF』のウッドモデル。板表面の木目は本物の木材を使っている。

スキーやスノーボードに親しんだことのある人なら、スロープのてっぺんから眼下に広がる斜面を覗き込み、すべてを飲み込むかのような急斜角に両ヒザが震えた、という経験のひとつやふたつお持ちだろう。
「ほぼ直角に違いない……」

こみ上げてくる恐怖に息を飲みつつ、そう自分に言い聞かせても、実際の傾斜角は20°前後だったなんていうこともしばしばだ。それほど、昔算数の授業で使った分度器からイメージする"角度"と、体感する"斜度"では印象の絶大なる乖離がある。

が、しかしプロの競技スキーヤーとして長年日本スキー界を牽引してきた秋庭将之さんが、アラスカの山で挑んだ雪面の傾斜角はなんと60°にまで達していたという。
「平均斜度でも58°はありました。どれくらい急かというと、肘を後ろに引けば簡単に雪面に届いてしまうくらいです」と笑いながら語る秋庭さん。

一度、バランスを崩して転んでしまえば、コントロールを失いそのまま標高差800メートル近い斜面を急転直下することに。自身のスキルもさることながら、スキーに自分の命を預けなければいけない過酷な状況だ。しかしこの経験こそがスキーブランド、『VECTOR GLIDE』誕生の契機になったという。
「当時のフリースタイル(バックカントリースキー)用の板は、それまで私がプロ選手として履いてきたアルペン用などに比べると、安定性や滑走性などプロダクトとしての精度に劣っている面がありました」

つまり"命を預ける"までの信頼性がなかったのである。だがそれも6歳から競技スキーを始め、30年を超えるキャリアのあいだに、アルペン、フリースタイル、基礎スキーとあらゆるスキージャンルを第一線で率いてきた秋庭さんにしか分かり得ない感覚なのだろう。当初は既存メーカーに掛け合ってバックカントリー用スキーの性能向上を試みたが、思うように前に進まない状況のなか、自身での新ブランド立ち上げを決意したという。

当時、世界でも前例のなかった試みを実現するため、秋庭さんがパートナーに選んだのは、日本のものづくり精神を注入したスキーブランドとして確固たる地位を誇る小賀坂スキー製作所。1年半におよぶスキー職人たちとの入念な開発・テスト期間を経てラインナップされたのは、デザインも乗り味も違う5モデル。今から10年前の1992年に販売が開始された。

VECTOR GLIDEのスキーは、ロッカーと呼ばれる先端部分の反りや、フレックスと呼ばれる板のたわみからビンディング位置などのディテールにいたるまで、各モデルともミリ単位の精密さで設計・製造されている。すべて秋庭さんの度重なる実地テストと、手を動かす職人との恊働によって実現化されたもので、いかなるコンディションでも最高のスキー体験を提供してくれる至極のプロダクトとなっている。
「スキー板の芯材はグラスファイバーとナチュラルウッドから作られています。もっともどんな木を使っているかは企業秘密ですが、たとえ素材を明かしたところで、同じものは誰にも作れないでしょうね(笑)」

スキーを愛する人すべてのライフスタイル向上をモットーに活動を続けてきたVECTOR GLIDE。10周年というアニバーサリーイヤーを迎え、今後はオーダーメイドなども視野に入れているという。次なる10年の展開がとても愉しみだ。

VECTOR GLIDE
http://www.vectorglide.jp/

秋庭将之
1967年札幌生まれ。大学卒業と同時にプロスキーヤーとなり、全日本ナショナルチームに選抜された経験をもつ。「妥協なきものづくり」をスローガンに立ち上げた『VECTOR GLIDE』は、ドメスティックブランド最高峰のスキーメーカーとして国内外に多くのファンをもつ。
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